イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
彼の差し出した小さな包みには、なぜか見覚えがあった。
厚い絹で出来た化粧袋は、そうとう上質で、イルバシットでも高い地位の者しか持てない品物である。
手にとると、思い出した。
確かに、これは、私が選んだ品物ではないか。
開くまでもなく、私自身が職人に造らせた物だとわかった。
我が娘キキの為に。
中からは、女性用の美しいトルキが現れた。
確かに、これも、この小刀の持ち主からすれば、宝剣の一つだろう。
娘のトルキを捧げられたローダは、良い眠りの後のように、すっきりした気分だった。
「確かにこれは、本人にとっては宝物だな。良く気がついたものだ。開まで、私は、娘に授けたこの剣が宝剣だということを忘れていたよ。しかし、宮殿の奥に隠しておいた娘を良く見つけ出したものだな」
カザルスは、跪いたまま顔を上げた。
その剣は、昨日受け取った物ではなかったからだ。
カザルスは、まさかローダがすぐに結婚を承諾してくれるとは思っていなかった。
だから、一度ラスカニアに帰るつもりで、彼女の身代わりになる物をもらっておいたのだった。
この剣を差し出すのには勇気がいった。
この剣は、他国に渡れば、宝剣ではないからだ。
ただ、キキにとっては、命に代わるくらいの大切な品物なのである。
ここにある私の名前は、お父様が彫って下さったのと言って見せてくれた。
「…」
「どうした?カザルス・クス。皮肉ではないぞ。娘をどうやって探し出した?」
「ローダ様。私は、キキ様が今どこにお出でになるのか知りません。その剣は、私がラスカニアに戻っている間、彼女の身代わりになるものとして、貸していただいた物です。私は一度国に帰り、自身を磨き上げてから、もう一度、訪問するつもりだったのです」
それまで暗い顔だったローダは、頭を振りながら、やられたよ、と小さな声でつぶやいた。
「良くわかった。娘が君を望むなら、クス家に嫁がせよう。娘を連れて帰るがよい。お父上にも、朗報だと良いがな」
「本当に嬉ゅうございます。姫には、必ず良い治世をご覧に入れるとお約束致します。国に帰りましたら、父から、手紙を送る事に致しましょう。結婚のお許し、本当に、ありがとうございます」
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