イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
俺は、朝の食事をすませると、リャウドに温泉のある場所を聞いて、入りに行った。
イルバシットと同じく、アルカザンも火山の恩恵を受けている仲間だ。
温泉は、数多く存在している。
体が温まれば、風邪は早く治るし、湯に浸かると、体の疲れ具合が分かるからだ。
ネストも誘ったが、珍しく、母親への土産を探すと言うので、今日は、別行動となった。
「本当にいい湯だな。イルバシットにいるみたいだ。リャウド、君もキキ様の事知っているのか?」
「先王のお妃様ですから、よく存じておりますよ」
「そうじゃなく、話をしたり、散歩のお供をしたりする事はあったのかい?」
「…御座いましたよ。キキ様は、活発なお方で、アルカザンを早く理解したいとおっしゃって、いろいろな場所を歩かれましたから」
「カザルス様も、キキ様と一緒にお散歩なさったのかな?仲のいいご夫婦になられたと聞いていたが」
「えぇ、はじめの頃は、キキ様にお供をつけて行かせておいででしたが、ある時からお二人一緒に行かれるようになったんです」
「ふうん、カザルス様は、今もお元気かい?もしお元気なら、試合の時に、ご挨拶を申し上げたいな」
「多分、おいでになりますよ。アルカザンは平和な国ですから。御前試合は珍しくありません。王族の娯楽なのです。そのうちのいくどかは、民衆にも公開され、賞金も出るんです」
「そうか、それは楽しみだな!お褒めを頂けるよう頑張る」
リャウドは、安心したようで、昨日よりずいぶん口が軽くなっていた。
「それからもう一つ聞きたい事がある。キキ様がご病気の時、どうしてイルバシットに知らせてくれなかったのか?イルバシット人は今も…何というか、根に持っている」
リャウドがどんな反応をするか、いくつか考えてみたが、どれも、問にたいする答えを含んではいなかった。
しかし、リャウドの答えは、アルナスから聞いた話と酷似していた。
「キキ様は、ある日急にお休みになられたのです。とても連絡など…」
「お休みになったって、それじゃあ生きているみたいじゃないか」
「休んでいらっしゃるようにしか見えなかったのです。でも…」
やはりアルナスの言った事は本当だったと思うしかない。
「俺にとっては信じられない事ばかりだ。でも、話してくれてありがとうリャウド」
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