イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「でも、おばあ様の言葉を僕達は信じているんだ。君の荷袋には炎の刻印がしてあるし、彼の荷の中に薔薇のろうそくが入っていた」
「あぁ、確かに白い薔薇に違いないが、あのろうそくは、王家の紋章じゃないんだ。しかし、キキ様の言葉の中の雪薔薇と言うのは、シエラ家の紋章の意味だろうな」
「薔薇のろうそくは?」
「ネストのリス家も俺の家もシエラ家のお抱えなんだ。だから、ろうそくや食器類に、シエラ家の紋章と同じような植物を模して、志気を高めているんだ」
「おばあ様にはね、星の声を聞く能力があったんだ。この国に来てから、星の声が聞こえるようになったっていってた」
「でも、その二人は、イルバシット人と決まった訳じゃないだろ?」
「おばあ様は、間違いなくイルバシットの戦士だと言った。いつか二つの国が力を合わせ、エジプトからの侵攻から逃れられる日が来ると」
「キキ様がそんな事を…。突然、亡くなったのだと言う知らせが来るまで。イルバシットは、キキ様が病気であることすら知らなかった。簡単には信じられないよ」
「おばあ様に何があったか、おじい様にもついに分からず、僕たちは、悲しみにくれていた。おばあ様は、若く美しいまま魂だけが旅立ったんだ」
「若く美しいままとはどういう事だ?」
「多分今も、大地の下で、美しい微笑みを浮かべているだろう。本当に、突然の死だったんだ。誰も理解出来なかった」
「どう答えたらいいって言うんだい」
「トルカザの言動がおかしい事の説明がしたいんだよ。弟は、おばあ様の死に自分が関わったと思っているんだ。だから、早く死にたいと思ってる。君と試合すれば死ねるとでも思ってるらしい。弟は君を本気で殺そうとするかも知れない。そうすれば、君が本気で刃を向けてくるだろうからね。でも頼むから、弟を傷つけないでくれ。君を強いと見込んでたのむんだ。弟を打ち負かしてくれ、怪我をさせずにね」
「本当に勝手な兄弟だな。本気で向かって来る相手をあしらうなんて、俺には無理だぜ」
「君なら出来ると信じてるよ。身のこなしを見れば、技量が分かる。弟と同じくらいの技量なら、体の大きい君の方が、圧倒的に有利だ。君の武器ならね」
「トルカザは、それで諦めるのかな。なんとなく、王子らしくないのは、王になる気が無いからなんだな。なんだか寂しいよ」
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