イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「なら、明後日にしよう。とにかく、剣士の相手は俺がする。お前は、アルナスとやるのが相応だと思わないか?アルナスは、トルカザの付き合いだ。いい兄貴じゃないか。お前は、俺のとばっちりだ。アルナスとやるのがふさわしいよ」
「君って奴は、ほんとに面倒な奴だな。放っておけば、明後日には出発出来るのに。試合がしたいのか?」
俺は、正直に言う方がいいと信じて、お前に借りを作りたくないんだと素直に話した。
「本当は、もっと大事になりそうだったんだ。俺の働きは、試合じゃ返せないぞ」
ネストは、楽しそうに、文句を言った。
「好きにしろよ。急いでるのも、苦しいのも君なんだ」
「ありがとう。この借りは返せそうもない。試合が済んだらすっぱり忘れてくれ」
俺は、素直な気持ちを言ったつもりだが、ネストは、楽しそうに笑っていた。
ネストとの話しが終わった頃、大きな部屋の扉が叩かれ、スープを持った花売りが入って来た。
「バルサン様、お待たせ致しました。ずいぶん顔色が良くなられましたね」
「偽物の宿屋を教えてくれてありがとうよ。しばらく世話になるぜ」
「どうかお許しを。あなた様と同様、主人を持つ身でございます」
真面目な顔で、花売りはそんな事を言う。
花売りの彼は、トルカザの事を、宝のように思っているらしい。
「花売りよ!主人に伝えてくれ。明後日、試合の相手は俺がする。友のネストは投げ斧の達人なんだ。剣は携えているだけ。そんなのを相手にしても面白くなかろう」
「やるつもりなんですか?試合などない方がいいに決まっているじゃありませんか」
「やるよ。世話をかけた恩は返すさ。彼がどうしてこんな事をしたいのかは分からないけど、真剣勝負じゃない。自分がどれくらいか知りたいんだろ」
バルサンは、だんだんと冷静さを取り戻し、トルカザとアルナスの関係にも目がいくようになって来た。
強く結ばれた二人の心をよそに、よからぬ事を考える奴はいるものだ。
似ていないことを理由にされるのは、二人にとっては、大きな苦痛だろう。
「なぁ花売りさん、二人の王子はどちらが王に似てるんだ?」
「お二人とも、お母様に似ていらっしゃると思います。お考えの通り、トルカザ様は、王妃様の御子ではございません」
花売りは、鋭い目で、俺の目の中を覗いた。
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