イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
主人役は、キキ様のトルキを大切そうに掲げて言った、カタコトのエジト語で。
「これは、おばあ様の形見なんだ。僕達は、クス家の跡継ぎなんだよ。この美しい短剣は、僕にとっても宝物なんだ。放り投げてごめん。僕は第二王子トルカザ・クス、彼は、第一王子、アルナス・クスだ。お詫びに宮殿に招待させてよ。今日は泊まって欲しい」
僕達は、この国の王子だと彼らは言った。
いったいどうやって信じたらよいだろう?
「キキ様のトルキが本物であったとして、それで君たちの身分の証明になるかな?違うと思う。キキ様の弟君の名前を言ってみろ!それが分かるなら、君達を王族だと認めよう」
は彼らの事を信じてるらしい。
バルザンには、わかった。
ネストはじめから、トルキが本物なら、彼らは王族だとそう言っていたし。
「もちろん知ってるさ。おばあ様と一緒にイルバシットに行った時、会ったのをかすかに覚えてる。マーキス・ラゴン・イルバシット様。きっと僕達が会った時には、すでに国王だったんだと思う。黄金の髪飾りをつけていた」
普段は冷静なネストが、俺の手を離して、彼らに近づいた。
「なぜこんな所にいる?」
「君達がこの国に入ったからさ」
この返事の裏には、何かあるみたいだ。
深い事情ってやつだ。
「どういう事なんだか、説明しろよ……」
バルザンはそう言おうとしたが、激しい頭痛に襲われ、その場に倒れ込んだ。
ネストはバルザンがどうしたいかわかってはいたけれど、宮殿で休んだらいいと言うカザルスの言葉を受け入れた。
そして、話を聞くうちイルバシットから戦士がやってくるのを待っているのが、キキ様である事も分かってきた。
キキ様?悲しい事だが、数年前、突然亡くってしまったのだった。
その亡骸はまるで生きているかの様だったそうだが。
ご遺体が保存されているわけでもあるまい。
どちらにしても、彼らは王族に間違いないし、アルナスのほうはやがて王となる。
ネストは、彼らを信じ、しばらく留まる事を決めたのだった。
「そうと決まったら、試合をしようよ!彼は二三日寝てなきゃならないでしょ!明日やろうよ」
「分かった。いろいろ話してくれたし」
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