イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「それはそうですが…」
「だったら、正しい反応。私の望み通りの反応だよ。君達は確かにとても強いけど、でもまだ君達二人より、私の方が強い。それにどうして私が二人の試験官に選ばれたか考えてみなさい。君達に技を教えたのは誰?君達の癖を知ってるのは?それに君達は、今日が試練の日と言うことも知らなかった。それで君達が勝てるわけがない。違うかい?」
先生は、なんの他意も持ってはいなかった。
俺は始めて安堵した。
「先生…ありがとうございます。俺達合格したんですね…」
いつもなら俺の肩をポンと叩く先生は、俺達の頭の瘤に気を遣って、肩に静かに手を置いた。
「ところで、歩けそうか?鎧はもうキサが届けてくれてるし、大剣は、ラザが背負ってくれる。泊まるなら、私は歓迎するけどね?」
「先生。もし迷惑でなかったら、もう少し話しを聞いてくれませんか」
「そう?私は構わないよ。ラザには剣だけ持って帰ってもらうか」
「父と母の話しを聞いたら、なんだか先生の事が聞いてみたくなったんです」
俺がそう言うと、先生の顔が、一瞬曇った気がした。
しかし、振り返った先生はいつもの表情だったから、俺はさして気にとめず、水に手を伸ばした。
「喉が乾いたろう。少しうなされてたから、でも、もう心配いらないな」
先生は、ラザに帰ってもらうからと言って、部屋を出た。
しばらくすると、大剣を背負ったラザが窓から顔を出した。
「元気そうだな。俺はそろそろ帰るよ。剣は手入れしておくから、安心しろ。旅立ちおめでとう」
「ありがとう兄さん。瘤が痛いけど、もう何ともない。今日はいい機会だから、先生と話そうと思ってさ」
「そうか。父さんもすごく喜んでるよ。母さんも、ニキも、ご馳走作るって、張り切ってる、なんだか、俺の時より盛り上がってるぜ」
「兄さんひがんでるの?なんといってもニキが増えたんだ。賑やかになって当たり前でしょ?」
俺達は笑いあった。
「じゃあな。明日は独りで大丈夫だろ?もし調子が悪い時は知らせてくれるってことだから」
「あぁ、大丈夫だよ。まるっきり油断してた。兄さんもそうだったの?」
「まぁな。すごく悩んだよ。今年は無理なのかなってさ」
「ふぅん…聞かせてよ」
「家でな!早く帰れよ!俺はもういないだろうけど。みんな待ってる」
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