イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
宮殿の正門を護るのは、近衛隊の兵士で、歩兵隊のケイの人となりを知る者ではない。
「非常時である。取次ぎは私がしよう。話を聞こうか」
「小隊長の教えがございます。シス様意外の方にお話は出来ません」
「なんだと!町の門番とは違う。宮殿の門番は、お前を自由に出きるのだぞ?今宮殿の中には、顔の知れた使用人と、シス様の弟子しか入れないことになっている。それを知った上で入れろと言うのか?」
何となく、話の分かりそうな男だと思った。
「ならば、私の幼なじみを呼んでくれないか?シス様の弟子だし、近衛隊だから、中にいるはずだ」
「ほう。お前の為に、シス様の護衛を放り出して、ここまで出て来いと言うわけだな?」
「そうだ。私は、平民の出身だ。親父がルジ家の馬番だった。ルジ家の三男イーデ様を呼んで欲しい」
「ほう。まさかお前イーデ様の幼なじみだとでも?」
「親父は、イーデ様とは仲が良かった。俺はいつも親父の後ろをくっ付いて回っていたんだ。年も近いし、俺は将来使用人になるから、ルジ家の事を学ぶ事を許されていた。ルジ家の歴史は、イーデ様と二人で学んだんだ。事故が起き、親父はクビになったけど、イーデ様は、お前とは友達だと言ってくれた」
「もし、イーデ様がお前は友達ではないといったら、どうしてくれるか?」
「腕なり、首なり、望みのものを捧げよう」
「…」
門番は、わざとらしく薄笑いを顔に貼り付けながら、部下に何か言った。
俺は、別に心配はしていなかったが、一応、彼が出て来られなかった時の言い訳を用意した。
「縛らせて貰うぞ」
俺は頷いた。
「シス様。イーデ様はこちらに?」
扉の外に声がした。
「何事だ。よほどの事でなければ門の外で処理するように、言って有るはずだぞ」
「はい、申し訳ございません。しかし、正門に、イーデ様の友達だと言う者が来ております。シス様に進言があるそうですがどう致しましょうか」
「そいつは誰だ?」
「はい、第三歩兵小隊のケイ・シグと言うものです」
「進言の内容は、聞いて来たか?」
「いいえ、本人にしか言えないと言っております」
「ケイは確かに友達だ。しかし、今は非常時…」
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