イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
気の強いリリアが、俺のはっきりしない態度に、怒らないわけはないから。
俺はすぐに行かなくてはならなくて、話は出来なかった。
しかし、さっきよりずっと近くでリリアを守れる。
俺は、見咎められないように大きく息を吐いた。
「緊張しなくていいの。国家の権力なんて、いつも狙われているもの。それでも何にも起きないものよ」
「キキ様、狙われてるなんて、そんな事平気な顔で言わないでください」
キキ様は、またにこりと微笑み、前を向いた。
「お兄様、今なんて?お兄様に斬りつけた暗殺者がレブだっていうの?」
「レブは、彼が暗殺者でいることで、私を守ってくれているんだ。大切なのは、暗殺者が本当に狙っているのがこの国の権力だと言うことだ」
「この国の権力?」
「リリア、相手の目星はついたが、確たる証拠はまだない。だから、覚悟が必要だ。試合が終わったら、お前にはレブをつける。私がどうなっても、レブを信じてついて行け」
「敵は誰?私にも教えて頂戴」
「また何も教えてくれないつもり?」
「違う。兄さんは、勝つ自信が有るんだよ。お前に言えば、レブだけでは守れない」
「そんなの嫌。ゾルジの事だって、あんな事言っていたなんて。彼は味方になってくれるのに」
「まだ目星がついただけなんだ。私は、死んだ振りをする。思い切り悲しむんだぞ。言いたくなかったが、お前の協力が必要なんだ」
「死んだ振り?そんな事が通じる相手?」
「暗殺者がレブでなければ通じないさ。でも、相手は、レブを手駒だと思っているんだ」
「レブは、命をかけて、私を守っている。いい奴なんだ。きっとお前を幸せにしてくれる」
「どんな事があっても、レブを助けるわ。宮殿の事教えてくれて、私のいたずらも代わりに叱られてくれたわ。それに、誰がレブの事好きかも知ってる。彼は、一番大切な友達だわ」
「いつまでも一緒に、二人で幸せになればいいさ」
「ゾルジの叫びを聞いた時、私心が震えたの。まるで、子供が母親を求めるような声だったわ。彼は、レブみたいに強くない。私が守ってあげたいの」
レブだって強くはない。
強くなんかないんだぞ。
しかし、声にはしなかった。
これは二人の問題だから。
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