イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
冷たい笑みは、探し求めた敵がサン家であると示していた。
だとすれば、レブの身も心配しなくてはならない。
暗殺の失敗は、死を意味する。
レブはきっと、自らが暗殺者となることで、私を守ろうとしたのだ。
私がレブを疑う気になれなかったのは、彼の本心が伝わっていたからか。
王家を守ることを生業とする、アダンを乗っ取れば、目的は達しやすいとでも思ったのだろうか。
そんな邪な考えの為に、私の大切な家族を暗殺したのか。
暗い、冷たい憎しみが湧いてくるのが分かる。
「シス、リリアに思いを寄せる騎士が、もう一人いること、リリアは知っているの?」
「もちろん、彼の気持ちは通じています。私の弟子となった時から、我が家にも出入りしていますから」
「あなたは、その彼と結婚して欲しいと思っているのね?それがリリアの幸せだと」
「はい。ドーン家は、ラスカニア一番の鍛冶屋ですし、サン家に仕えていれば、安心ですから」
「リリアの気持ちは、聞いたことが?あなたにも、リリアの寂しそうな顔が分かるわね?」
「王妃様には、本当に恋をした相手がおられますか?カザルス王は確かに素晴らしい方です。でも、彼が国王に即位しなかったら、お二人には、別の人生があったのではありませんか?本当に愛があればこそ、相手の立場を理解する。わたくしはそう思います」
「厳しい言葉だこと。あなたにとっては、リリアもレブも大切なのね。でもねシス、人の心は時として、人によって支えられるものなの。その支えを、あなたの自由にしてはいけないわ」
なんだって?甘ったるい話ばかりたな。
権力の中にいる者の贅沢な戯言。
そろそろ打ち壊してやろうか。
お前たちの、戯言と共にな。
背後から、殺気が伝わって来る。
王妃様のお腹の御子ももろともに、まさかここで仕掛けるつもりか?
そんなことは、絶対にさせない。
「あなたは、トルキを持っているかしら、もしあるなら見せて下さる?いつ見ても、どんな戦士のものでも、美しい物だわ。マーキスの思いも、あなたの師の思いもどうしてか、よく見えるのよ」
「はい。いつも懐に入れていますから。私のは、小型の刺剣のような形をしています」
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