イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「ゾルジ、花嫁候補はもう見つけたんじゃないの?あなたの目にはそう書いてあるわよ」
「いいえ!剣の稽古ばかりしていましたから」
「どんな方々と過ごしていたの?」
「宿の女将さんや、両替所の人、イルバシット人のザイルさん、稽古に付き合ってもらったヤード氏。シス王子の弟子のレブさん。道を教えてくれた人達。そんなものです」
俺は敢えて、入国した日、リリアに救われた事は言わなかった。
王族としてのリリアに、迷惑が掛かってはいけないと思ったからだ。
「嘘をつかなくていいわ。アダン家の姫とお話をしたのでは?」
どうしてばれたのか分からない、しかし隠しきれないほど、俺は慌てた。
その時、リリアの視線を感じた。
昨日怒り出した時の、悲しげな視線。
「あのリリア姫には、ルイカの街で確かに助けて頂きました。でもあの、」
キキ様がシスを見ると、シスは跪いて話し始めた。
「王妃キキ様。妹は、仮にもクス家の姫。簡単に渡すわけにはいきません。ですから私に勝ち、弟子に勝ったら、話をさせてやると申しました」
「意地悪で、賢いお兄さんだこと。可愛いいリリア。あなたの気持ちはどうなの?王妃様がお幸せなら、ラスカニアの平和はきっと守られます。嫁いで二年が過ぎた私にあなたは言ってくれたわね。あなたの言葉は優しかった。どれほど助けられたか。今度は私の番。あなたの素直な気持ちを聞かせて」
リリアの顔から、俺は目を離せなかった。
そして昨日、リリアの怒り出したわけを考えていた。
「私は、彼の叫びを聞いたんです。とても悲しそうで、でもなんだか力強かった。助けを求める彼の声を聞いた時、この人なら、兄の助けになる。この国を救ってくれる。そう思ったんです」
「そうなの。彼はなんて?」
「協力してくれると言ってくれました」
「リリア、あなたの望みは叶えられたわけだわ。なのにどうして、そんな寂しそうな顔をしているの?」
リリアは答えなかった。
まさか?
そんなわけない。
でも、リリアが怒りだしたのは、かわりに一生を共にというのを断ったからだ。
「リリア、一番の望みは?」
「王妃キキ様。よく分からないんです」
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