イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
逃げ出すなら今だよ…。
これ以上首を突っ込むなら、容赦はしないよ!
僕は、暗殺剣の達人、ソナ・サンだからね。
デルタって言うのは、母の旧姓。
君みたいに甘い兵士にはあった事がないよ。
「ソナったら!すぐに知らせてって言ったのに」
目の前には、きらきらとしたドレスのリリアがいた。
「クスタリリア。これは申し訳ありませんでした。休憩時間に、ご案内をと思っていたものですから」
「その呼び方はお断りしたはずよソナ。私はアダンのものだわ」
なんだか、リリアは、昨日より更に綺麗だ。
俺の心臓は、容赦なく高鳴った。
しかし、試合を戦ったせいで、初めから汗だくで、息も静まったばかりだった。
だから、二人には、俺の心の中の乱れは見えなかったと思う。
「あなたも、声くらい掛けなさいよ!全く、刺剣は片手間の兄に負けるし!」
「…」
「クスタリリア。あまりにお綺麗だから、きっと躊躇われたのでしょう。そんなに言ってはかわいそうです」
ソナと話すリリアの目には、なんだかけんがある。
俺はそう感じた。
「クス家の姫君とお呼びするのがお気に召しませんか?」
「あなたの思う通りにはならないって言うことだわ」
「ひどいな。僕は何も考えてやしませんよ」
二人の言い合いは、俺がいなければ、続いたのかも知れない。
しかし、二人とも俺の方をちらちら見ながら、矛をおさめた。
「もうすぐ休憩時間よ、競技会にイルバシットの戦士さんが出場した時の習いで、王妃様との謁見があるの。キキ様が心配するから、余計な事は言わないでね」
「分かりました」
「余計な事とは、なんだか意味深長ですね。さすがに、王族でなくては言えない言葉だ」
「あなたは黙っていて」
したり顔もそこそこに、ソナさんは、振り向いたリヤドさんに跪いた。
ソナさんの声が聞こえるようだ、召使いにも上下が有るんです、彼に睨まれたら怖いですからね。
すでに、競技場にいた兵士は引き揚げ、五つ目まで終わったらしい的だけが残されている。
明らかに、手前の的に記された白い円の方が小さいのが、ここからでも見てとれた。
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