イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
奥の若者の的は、二段階遠く、かなり小い。
手前の若者の的は、次が一番小さく、一番遠い。
どちらが有利か、弓の苦手な自分にはよく分からない。
「ソナさん、どちらが有利かな?」
「的の並びは、自分で選べるんです。だから、駆け引きのうまい方が、勝ちに近いと言えます」
「弓は苦手ですか?遠くにあって、小さいから難しい訳ではないし、近くて、大きな的が簡単というものでもありません。大きな的の真ん中は、かなり難しいものですよ。私は、手前の兵士の勝ちだと思います。一番遠い的の真ん中に六本集める事で、相手に圧力をかける事が出来るじゃありませんか。奥の兵士は、自信の無いのを露呈してしまっている」
「心理戦か!俺はさっきそれでやられた。甘くて、嫌になるよ」
「あくまで鍛錬の一部。戦じゃないんですから。これから、楽しみましょう」
「ソナさん。君の友達は出てないの?応援しよう」
「仕事柄、競技会に出る兵士と一緒には稽古をしないものですから。唯一大剣で残ってる歩兵長は、姉の夫です。そのかわり、王宮の中にはたくさん友達がいますよ」
「稽古も一般の兵士とは別の場所でやるんだね。大剣で出ている歩兵長って、もしかして、ヤードさん?」
「ええ僕の口から何か漏れたら大変ですから。姉の夫をご存知とは、ゾルジさんは隅に置けない人ですね」
「僕は、王家からは離脱していますが、彼らと血が繋がっていますから、王宮での仕事をさせてもらっているんです」
「クス家の人って事か」
「王家の事情にもお詳しいんですね。しかし私はクス家のものではありません。三代前の王の兄君が継承している王家、サンの一族です」
「複雑な話だね。ヤードさんの話しでは、彼らはクス家から離脱したもののように感じたけど」
「ヤード家はクスから離脱した王家の一族です。姉はそこへ嫁ぎました」
「そう…。イルバシットの王家は常に動かないから、凄く複雑に感じるよ。シスにも継承権が有るってことは、ひょっとしたら、君にも?」
「今はありませんよ。まぁ、発生しないとも限りません。サンの家にも、クスの家にも、未婚の姫君がいますからね。一度離脱しても、王族との結婚で、また王族となりますから」
そろそろ恐れをなしたかい?
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