イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
ゾルジの心は、ただ真っ直ぐで力強い。
損も得もなく、リリアの為に突き進む。
父母の健在だった頃の私自身を見るようだった。
自分自身が真っ直ぐなら、策略などはねのけられると信じていた。
しかし、父母が亡くなり、カズを失うと、我が手にある力の小ささに、私は甘んじてしまった。
ゾルジの目の中を覗かなかったら、私は何も守れない弱い人間のままであったろう。
彼の目を見つめていると、力が湧いてくるのだ。
このまま挑んでも、きっと、サン家の策士には勝てないだろう。
リリアはサン家の妃としてとられ、私は葬られる。
そして、アダンを名乗るものはなくなるのだ。
そうなる事が負ける事なら、彼らに勝つことは何だろう?
彼らの悪事を暴き出し、罰することか?
それとも、彼らから王位継承権を剥奪する事か?
もし勝つという事がそう言うことなら、私には、勝利の女神は微笑まないだろう。
しかし、もしも、このラスカニアが息を吹き返し、以前の活力を取り戻す事を勝ちとするなら、私には、まだ勝機がある。
この少年のように、立ち向かう心を、もう一度思い出すのだ。
「子供よ!よき知らせだ。リリアは殺されはしない!暗殺者はリリアに夢中だからな。それからもう一つ。勇気をありがとう。礼を言うぞ。本気でかかって来い。心ゆくまで戦おう。客人に勝ちを譲りたいが、どうしても勝たなくてはいけない事情があってな、あしからず」
「シス、君は、暗殺者を知ってるのか?それに、俺は子供じゃない。小さな弟子だっているんだぞ」
「これは失礼。子供とは、清らかだと言うことだ。未熟と言う意味ではない。お前は清らかで力強い。そういいたかったのだ」
「リリアに夢中?まさか、お弟子さん?そんなわけないね」
「王位を継ぎたいと、思った時から、心の中に、小さな虫が生まれるのだそうだ。レブの心に虫はいない。お前の恋敵。戦いたいだろうが、私も弟子と手合わせしたいんだ」
「誰なんだ!言ってくれ!」
「君が聞いた声の主。それは、アダンと双璧をなす旧家サン家の当主と見て間違いなかろう。君の力でなんとかなる相手ではない。こじれたら、戦になるんだぞ」
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