イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
もう、明日の試合の事を考える事が出来なかった。
そればかりか、ゾラへの手紙さえ、筆が止まったままに残っている。
結局、明日はシスと戦うんだ。
そんなふうに、朧気に考えただけだった。
夜の間は、ずっと体が緊張したままだったと思う。
そして、明け方少しだけ浅く眠った。
だから、またマキさんに叩き起こされた。
「全く、よく寝る子だね!今日はシス様と戦うんだろ?しっかり食べてお行き!」
「昨日、お礼を言いそびれちゃったけど、応援してくれたんだってね。さっきザイルさんから聞いた」
「イルバシットの子は、人気があるって言ったろ?キキ様が、税金を、半分以下にしてくれたんだ。昨日は王妃様がいらしていたんだもの。みんな応援してたわよ」
「そうか、そんなに。愛されてるんだね!なんだか嬉しいよ」
「でもねぇ。なかなかお子様が生まれて来なくて。敵対する貴族のバカは、北の呪いだなんて言うんだよ。実入りが減ったからってさ」
「ふうん。税金が半分か。それでも、こんなにゆたかなんだね。たくさん国民がいるって、やっぱりすごい。イルバシットもいつかそうならないかなぁ」
「そうだねぇ~!でもさ、あの山の上なら、誰のものでも無いんだ。それに、麓には亜境界地域がまだある。大きくなるさ。キキ様の弟君が王様なんだろ?」
「亜境界地域か。あの平原が手に入ったら、本当にいいだろうな」
「ほら、これ乾いてるよ!汗かくからね、風邪をひくんじゃないよ」
俺は、少し筋肉痛の残る体を引きずって、競技場を目指した。
後ろから、ミナさんの声が聞こえた。
一つ終わったら、一辺帰って昼寝しな、最後は、肝の太い奴が勝つんだからね。
俺は、手を振って答えた。
一つ終わったらか。
勝つのか、負けるのか、もうすぐ決まる。
でもそれより、暗殺者が気になる。
どうか、リリアが来ませんように。
そう願ながら、俺は、控え室の扉を押した。
中には、レブしかいなかった。
八人いるはずなんだが。
「他の兵士は?」
俺はエジト語で聞いてみた。
「他は王族だよ!」
レブは、闘志か、敵意か分からない感情で俺を睨む。
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