イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「おや、あんたはなんだかすごいねぇ」
「何が?」
「だってさ。なんだかついてるじゃないか」
「そうかな。確かに、いろんな人に会ったけど。後は、キキ様に会えたら、思い残す事はない。言い過ぎかな?」
「もう終わりみたいな言い方して、人生始まったばかりなのに、遠慮深いんだね!」
「ところでさ、ザイルとは話したのかい?」
「話したって、何を?」
「いや、ここらへんの人は、みんなザイルにエジト語を習ったんだよ。うまかったろ?」
「うん。本当に、イルバシットのシの音が本物だったんだ。外国人には難しい音なのに」
マキさんは、にこりとすると、テラスに、スープを運んで来てくれた。
柔らかいパンと雉らしい鳥の焼いたのが綺麗な模様の入った皿に盛られている。
最低の宿泊料の食事だけど、大したご馳走に見える。
小さなキャラバンが一緒で、子供達が、話しかけて来るから、寂しくないからに他ならない。
互いに、通じない言葉で笑いあうのが、なんだかやけに楽しかった。
「あの人さ、イルバシット人なんだ」
「えっ…。だれが?」
「ザイルだよ」
「旅の途中で死んだことになってるらしいけど。炭屋のお婆さんに惚れちまって。結局ここに住みついたってわけ」
「本当なの?信じられないよ。確かに、旅先で亡くなった戦士が四、五人いるって聞いたことあるけど…」
「彼らも、どこかで、幸せに暮らしてるかも知れないよ。条約がある世の中だ。追い剥ぎが出たところで、あんた達は、喧嘩は得意なんだろ?ただ、みんなの手前、死んだ事にしといた方が都合がいいんだろうよ。お節介かも知れないが、リリア様を追いかけなさんなよ。あんたの母親が悲しむ。そんなの嫌だろ?」
俺は、頷いた。
あまりにも、マキさんが真剣だったから。
だけど、同時に、リリアと共に暮らす絵も、頭のどこかに仕舞い込んでいた。
実現はしないから、想像くらいしてもいいさ。
気楽にそう考えていた。
マキさんは、リリアの事が気にかかるらしく、俺の対戦に関しては、教えてくれなかった。
円で囲んであるのが俺。
言葉の発音より、文字の違いが大きくて、それしか分からない。
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