イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
本当は、話したことの全部が真実じゃないけど、母さんがいつも言うように、聞かない方が良いことだってあるんだ。
ミナさんが困る様なことを話す必要はない。
俺の父さんは、無口なんじゃなく、むやみに話す事を禁じられている。
それが城門の門番の掟だから。
言葉を禁じて、秘密の漏れるのを防いでいるのだ。
門番が言葉を交わせるのは、僅かな近しい人だけ。
しかし親父は、言葉でない、いろいろなサインを持つ。
だから俺達親子は、気持ちを見せるのに、困った事などない。
ミナさんに、余計な心配をかけないためには、無口なんだと言っておくのが一番だ。
暖かいスープは、腹に染み渡る。
おれは油断して、思わず息を吐き出した。
「ため息だぁ!」
一番下の子が笑顔で話しかける。
「兵士は、そんなのいけないんだよ!」
ラスカニア語だからわからないけど、雰囲気は分かる。
ため息は、ラスカニアでも、気の抜けてる証拠なんだなと。
俺は、子供達に笑顔で話しかけた。
可愛らしいこの子達と、仲良くなりたかったから。
「そうだね!油断はだめだな」
ミナさんが何か言うと、子供達は楽しそうに笑った。
「なんとなく通じるものね!言葉自体はあまりにていないんだけどね」
「そうだね。俺も、最近まで子供だったから。お嬢さん達、みんな可愛いいね!冗談じゃなく、リリア様に似てる」
「あら、私は?」
ミナさんは、そんな風に言って、にこりとする。
そりゃあラスカニア人だもの、うちの母さんよりは似てるさ。
俺はそう思ったものの、もう一度、ミナさんの顔を眺めてみた。
すると、リリアのお母さんは、ひょっとしたら、こんな感じかも知れないと思えてきた。
確かに、良くにている。
大人と子供だから、感じが違って見えたけど、目も、輪郭もよく似てる。
「やっぱり、似てないわよね。三姉妹のうち、母さんだけ、父親似だもの」
「ミナさん。三姉妹って、誰の?」
「王様の三人の妹の事よ」
「冗談でしょ!それじゃあミナさん、王族じゃないか!」
「違うわ。父さんは、王族じゃ無いからね。私はれっきとした庶民よ」
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