イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
俺は昼間まで眠った。
水桶の水で身支度を整えていると、腹が鳴る。
口をすすいだついでに、喉を潤した。
競技会に参加する。
そう決めた時から、俺の体はふわふわと震えていた。
運命の日、旅立ちを許されたあの日のようにである。
他国での競技会出場は、ゾルジにとっては、やはり、一大事。
答えのない問題を出された時みたいに、俺は落ち着かない。
情けないけど、やっぱり怖いのかな?
ゾラがいたなら、競技会まで剣を振り回して過ごすんだろうけど、一人では、緊張感を拭い去れないでいた。
はぁとため息をついた時、部屋の窓からマキさんの声がした。
「先生様、良く寝むったもんだね。さっさと起きて、朝飯を食べな!運が良きゃ、門番に会える」
俺の体は、門番と聞いて一気に目を覚ました。
そうだ、今日はやることがたくさんある。
「マキさん、ありがとう。門番は自分で見つけるよ。堅焼きパン以外の食事がとれるだけで、十分だ」
「今日はまた、遠慮深いんだね。キキ様がいらしてから、私らみたいな庶民でも、楽な暮らしが出来るようになった。イルバシットの子供は、私らにとっても、宝物だ」
「宝物か。キキ様は、素晴らしい架け橋となって下さってる。俺が競技会に出られるのだって、キキ様と、カザルス国王様のおかげだ」
「あんた、良く分かってるんだね。この国も、頑張るよ!もう争いは懲り懲りなんだ」
ゾルジは、黙って微笑んだ。
本当は、戦いで国力を高めて大きくなったくせにと思ったけど、それはマキさんのせいではない。
もしかしたら、国王のせいでもないかもしれない。
平和も、争いも、よくよく眺めたら、あんまり差はない。
塀の中の平和を守るために、戦わなくてはいけないなら、きっと俺は、外に出て戦うから。
誰かのために、きっと戦う。
その時には、相手の命を思いやる余裕はないはずだ。
兵士の少ないイルバシットは、建国の時から、戦わずして勝つ道を選んだ。
初代の王が選んだ土地は、厳しい環境の山上だったのだ。
活火山の、山頂付近にある、盆地で、自然の城壁に守られている。
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