イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
どんなことがあろうと、お前だけは、俺が守ってやる。
父上、母上があんな事になって。
それでも、お前だけは。
シスは、宮殿の前で心配そうに待つ二人の弟子に、笑顔を見せた。
「私が、不覚を取るとでも思ったか?」
シスがそう笑うと、二人の弟子は、素直な羨望の眼差しを向けてくれる。
私は、幸せものだ。
だが、守るべき物の大きさを考えると、胸が騒いだ。
西の国から姫君が来た時、父上はこの国は変わるぞとおっしゃった。
王妃の働きで、ある法律が成立したのだ。
納められた税金が、庶民の元へ帰る、画期的な法律だった。
長い歴史を持つラスカニアは、王族も貴族も、判別に迷うほどに増えていた。
彼らを養う為の税金は、庶民を苦しめ続けていたのだ。
そして王が、その位を譲る時には、いつも、暗殺の匂いがした。
武力で国を大きく育てて来たラスカニアには、すべてを武力で解決しようとする気質が出来上がっていた。
この国の貴族ではない妃をむかえた王の時代。
まず、王の側近の身に不幸が続いた。
それがシスの父親だった。
三年前に亡くなった、弟のサナだって。
弟はそんな事感づかず逝ったけれど。
思い当たるのは。
王家と繋がりのあるすべての貴族が悪意に満ちて見えた。
自分たちの親族さえ、父母の仇に見えてしまう。
「さっきの少年は、なかなか強い。レブ、お前は、刺剣の試合に出るだろう?お前と手合わせ出来るくらいまでは勝ち上がるだろう。勝った方にリリアをやる。奴と対戦するまで、絶対負けるなよ。お前の山には、多分、隊長のリジェ・カロルがいる」
「…シ シス様?ななんて事を?リリア様を、そんな事いけません。リリア様をかけるなんて…。だいたい、私がリジェ様に勝つわけ無いじゃありませんか?」
「じゃあ、闘わずして、リリアは少年のものだな。ずっとリリアを見てきたのに、それでいいのか?」
「シス様…。」
「お前の家には王家との繋がりが無い。だからリリアに男の子が生まれても安心だ。頑張れよ、レブ」
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