イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「お祖母様?どうしたの?苦しいの?」
声をかけても、返事をしないのは分かっていた。
でも、お祖母様の顔がとても苦しそうで、トルカザは放っておけなかった。
「キキがどうかしたか?トルカザ」
「お祖母様の顔に、しわが寄っているんです」
「キキも目覚めようとしているのか?キキよ、目を開けてごらん。息を思い切り吸い込んでごらん」
しかし、キキの額に手を当てたカザルスは、冷静ではいられなくなった。
いつもの体温が感じられないのだ。
「キキ、早く目を覚ますのだ。どうして、こんなに体が冷たい?私は何をすればいいんだ、教えてくれ」
「お祖父様、今イルバシットの戦士を呼んで来ます。一人は星読みと言う者らしいのです。アルカザンに入ってから、何度かお祖母様の声を聞いたと言っています」
「そうか。すぐに呼んでくれ。せめて、この冷たい体を元にもどして欲しい」
「バルザン、お祖母様の様子が変なんだ。出来る限りでいい。見てくれないか?」
扉が開くと同時にアルナスの声が聞こえた。
「分かった、何が出来るか分からないが、とにかく会ってみよう」
バルザンは、脈動の度に痛む頭をゆっくりと持ち上げ、歩き出す。
扉の前に立つと、逃げ出したくなるほど、深い恐怖に襲われた。
ネストは、ふらつくバルザンを支えながら、バルザンの恐怖を感じ取った。
「君なら出来る。君がだめなら、僕がなんとかする。だから、そんな顔しないでくれ」
本当は、僕が王子だったから、話が複雑になったんだよ。
ネストは言いたかった。
キキ様が病気に苦しんでいらっしゃるのだとしても、見習いの域を出ていないバルザンが、治せるとは思えなかった。
かえって、苦しい思いをさせた上に、旅はまだ一歩も進んでいなかった。
「悪いな、何も出来なくて」
「いいさ、お前がいなけりゃ、旅は出来ない。考えたんだ、無い頭を絞ってさ。俺達は、己の力を知るための鏡なんじゃないかな」
「鏡?」
「うん。星読みは、力を高めるために合わせ鏡を使うんだ。鏡の中に星と自分を一緒に写す。そうすると、自分の心がよく見えるんだ。ただひたすら瞬く星に比べて、自分の心がいかに欲にまみれているかが」
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