イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「なるほどね、信じていると言うわけか。だがここはアルカザン。イルバシットの法は通じない。それに、城の中は敵で満たされているかも知れない。トルカザはおそらく、何かを掴んで城へ戻ったんだろう」
話は、だんだん大きくなり、アルナスの顔色も変わった。
ネストは、アルナスの悲しげな顔を見ているうち、試合なんかどうでも良くなった。
元々急ぐ旅だった。
僕が…
迷っている間に、大王とアルカザの妻ミナスが僕達に近づいていた。
「すべて、我が一族の身から出た錆、イルバシットの若者に解決してもらうことになろうとはな。孫の無礼を許し、試合を止めて、城に戻ってくれまいか。始まりは我が義妹の罪。だが今は、見て見ぬ振りをした私の罪だ」
「お祖父様。それは…」
「あの毒も、すべて?」
「違うんだ。その事に気づいた我が友が、義妹を説いてくれた。しかし、彼女はかえって怒り、彼を狙ったんだ。私は彼を追放するしかなかった。義妹の事は、いつか説得するつもりでね」
ネストは、自分が聞いてはいけない気がして、槍をその場に置いて、下がっていた。
どの国にも起こり得る辛い問題だった。
「アルナス、あの毒の事、良く考えてごらん。どうして彼の口に入る事になったかを」
「まさか…」
アルナスはそれきり口を利かなかった。
ネストは心配よりもむしろほっとして、アルカザンの王族の後に従った。
どうしてだい?
あの時、君は死ぬつもりだったの?
もっと早く気づいてあげたかった…
トルカザは、風に涙を飛ばしながら、城へ急いだ。
考えれば、単純な謎解きだった。
あの時、僕の皿の果物をどうしてリャウドが食べたのか。
どうして彼が倒れたのか。
始めから、殺す気なんかなかった。
その事に気づくのが遅すぎたんだ。
辛かったろう。
トルカザは、闘技場を出て行くリャウドの後ろ姿を見た時、自分の心の声を聞いたのだった。
前から分かっていたことだった。
同じ無花果の花を食べられない体質だったのを、リャウドは自分で知っていたはずだ。
君は、早く見つけて欲しかったんだね。
トルカザは、悔しさに飛び散る辛い涙をあじわいながら、リャウドの命を思った。
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