イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
俺は、結局ネストが何者だって構わない。
でもコイツの口からなんて、何も聞きたくはない。
そう思った時、今まで何とか保って来た心の平静が崩された。
俺から打ち込む時は、トルカザの剣を狙う。
そう決めていた。
力で勝つ事が出来ない限り、いつまで経っても疲れない小さな王子を打ち負かすことは難しい。
俺は力比べをしたときから、用心していた。
でも今、ネストの持つ秘密が俺の心を乱した。
俺は、動きまわるトルカザの隙をめがけ、ついに一太刀を打ち込んでしまった。
思った通り、俺の剣の先にトルカザの姿はなく、その代わりに、俺の首筋に、冷たい感触が伝わった。
「そこまでだ。二人とも良く闘った。第一試合は、王子トルカザの勝ち。二人とも剣をその場に置いて退場せよ」
審判の声が、俺の心を逆なでする。
気がつくと、俺は闘技場の土に剣を突き刺し、出口を探していた。
そして、初めて、声が枯れるほど、応援してくれていたネストに気がついた。
俺は、ひどい顔をしていた。
見られるのは悔しかったが、俺は自然にネストと目を合わせた。
俺は、黙っていたが、ネストは、見てろ、僕が勝つ、そう言って、槍を握った。
アルナスは、持っていた剣を槍にかえ、闘技場の中央に進んだ。
「槍と剣では間合いが違いすぎるし、剣では手加減出来ないから、槍を取らせてもらった。別に君を騙したわけじゃないからね。どっちにしたって、もう僕達の言うことを聞いてもらうことになるね。僕は止めてもいいけど、まだやるかい?」
試合を終えたトルカザは、もうここにはいなかった。
今思うと、トルカザは、何かを見て、顔色を変えたのかもしれなかった。
俺の言ったことは、元々彼らが話した事だし、トルカザは隠す必要など無いはずだから。
時間稼ぎのつもりで話した事に、トルカザが反応したのが、そもそもおかしかったのだ。
俺は心が乱れていて、それに気がつかなかっただけだ。
今大切な事は、トルカザが顔色を変えて、お付きをつとめているリャウドの後を追って行ったことのじゃないか。
静か過ぎる城の中や、あまりにも少ない近衛兵。
さして、アルカザ王やキキ様の事。
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