イルバシット 戦士と花嫁 約束の大地へ
第1章 イルバシット
「イルバシットの戦士よ。良く来てくれた。今日は君達の試合が見られなくて残念だ。王子達の戦いぶりも見たいが、それより、大事な仕事があってな。力いっぱい闘うがいい。ただし、怪我はいけない鎧をつけ、負けたものは相手を讃えよ」
アルカザ王は、驚くほど若く見えた。
声は太く良く通る。
しかし、どう考えてもアルナスやトルカザの親には見えない。
強い違和感に襲われ、俺は、言葉を返す事が出来ない。
「アルカザ様、お答え下さい。あのように馬車を止めるのは、アルカザンでは自然の事なのですか?もしや、私達の支度が遅いために、失礼をしたのかと心配でなりません」
アルカザは、僅かに息を呑んだ。
さぁなんと答えるんだろう?
俺は楽しみに待った。
ネストらしい、先制攻撃だ。
「私は病気でね。光りが眩しくて仕方ないんだ。そろそろ日の入る時間だから、馬車で塞いでもらったのだ。君達のせいではないから心配いらない」
「ご病気の事など、何も存じませんでした。帰りましたら、必ずマーキス王に報告いたしましょう」
「心配はいらぬ、長く付き合ってきた病だ。それに命を奪われる訳ではない」
いきなり病だと言われ、俺は汗の湧き上がるのを感じていた。
それが謎を解く鍵なのか?
「イルバシットにお出で下さった時には、ご健勝だったと聞いています。どうしてそんなご病気になられたのです?イルバシットには、聖なる泉が御座います。ご病気に効くものもありましょうから、どうかお聞かせ下さい」
「父の友が戻れば、すぐにも治るだろう。しかし、父を助けるため、旅を続けているのだ。私の病よりも、もっと大変な事がある。それには君達の力が必要らしいのだが、貸してくれるか?」
「僕達の力?僕達はただの戦士ですよ?アルカザ様にお力添えなど出来るわけもありません」
「そうか。そうだな。兎に角、力一杯闘うがいい。戦は二度とするまい。しかし、技を忘れてはいけない。思い切り闘い、磨く事は、若者にとって、至極大切なこと。息子達は、長く私を助け、苦難に耐えてきた。甘く見るでないぞ」
アルカザ王は、そう言うと、ネストに手招きして、王座の近くに呼び、隣に跪くアルナスに耳打ちした。
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