守りゆく翁
第1章 砦吉爺さん
そんな尾瀬ヶ原をこよなく愛する砦吉は、尾瀬沼のほとりに一人で住んでいた。そして、至る処から訪れる観光客らに対し、何かと不信感を抱いていた。
(この大自然をお前らの粗末な心で穢すんじゃないよ。まったく、困ったもんだ)
彼らの中には、この美しい尾瀬ヶ原を観賞しに来るだけでなく、ゴミを持ち帰らずにそのまま地面に埋めて帰ってしまう者も少なくないからである。
「ちょっと、小谷さぁん。そんな所で何してるの。早く行きましょうよ」
「ごめんねぇ、みんな。あたしだけのろのろ歩いちゃって」
「ヒャッホゥーー」
「何叫んでんだ、将敏。カッコ悪いぞ」 「いやぁ、別に。久しぶりに大自然の中で俺ら戯れちゃってるもんだから」
「何だよ、それ。アハハハ‥」
仲の良い、ベチャクチャ喋りながら木道を歩くおばさん連中、サークルか何だか知らないが奇抜な洒落た恰好で、ダラダラと尾瀬をまともに見に来ているのかもわからない若い男女の群れ。こういった不謹慎な者達を見る度に、
(あぁ、また来おったよ…)
と溜め息を吐いてしまう始末である。せっかくわざわざこの大自然に恵まれた尾瀬に来る人々を、ただ一瞥しただけで目の上の瘤としたくはないのだが、どうしても一部の連中のこうした卑劣な行為を目の当たりにしてしまうと、砦吉は観光客が歩いている姿を見るだけで時々、呆れと怒りの心情を面(かお)に表さずにはいられないのであった。
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