千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
確かに、松善は、僕や母上を、おそれずに、話をする。

父は、松善こういう単純さを愛するのだと、この時僕は感じた。

彼の弟子の中に、北の政所がいる事など、まだ誰も知らなかったからだ。

松善がどんな気持ちで、登城していたか想像出来たのは、ずっとたって、僕の心が、少しは大人になってからだった。

「松の宮。大阪城での茶会の時でもいい。僕にお茶の手ほどきをしてくれないか?そちのように美しく出来るか?」

「はい、お茶は相手があってのお持て成し。大切な方がおられるなら、すぐにみにつきましょう」

松善は、嬉しそうに笑ったように見えた。

しかし、その手は、震えていた。

僕は、あまりにも幼くて、こんなに卓越した人でも、緊張で震える事があるんだなと、そう思い込んだ。

松善は、掛け軸や、茶器の類を、淀城に置いてあるらしい。

今日は、それを選びに来たのだ。

立ち働く、若い僧は、弟子なんだろう、僕には分からない松善の指示に頷いていた。



僕の中には、松善に会えた事が深く印象に残り、大阪城に戻った後も、しばらく彼の事を考えていた。




しかし、いつの間にか、霧丸との間に生まれた違和感が気になり始めた。



霧丸との出会いは四年前だった。

一人の若い侍が怖い顔をして、僕の前にひれ伏し、挨拶をする。

青年は、将乃介と名乗り、ご用があったらお呼び下さいと言って、出て行った。

僕は、足音がしないのが不思議で、すぐに障子を開けた。

いるはずの彼がいなくて、僕は寂しくなって、泣いたのを覚えている。

嗚咽をこらえながら、教わった彼の名前を呼んだのだった。

「しょ…うっ…の、すけっ…」

何度も。

「若殿様。いかがなされました」

将乃介はすぐに現れ、僕の背後から声をかけた。

僕は、いなくなって寂しかったとは言えなくて、将乃介の胸を思い切り叩いたのだった。


「若様。剣のお稽古をなさいますか?私は、剣術の指南役として、若様の元へ来たのです」

「ならばはやくっ…おしえんっ…か」

僕は、機嫌の直し方が分からずに、また怒った。




そんな出会いだった。

僕と将乃介は、それからいつも一緒だった。

稽古の他にも、何度となく城を抜け出して、教育係の松崎に叱られた。
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