千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
「若殿は、私を兄だと」

霧丸は、飛ばされた剣を引き抜き、自分の着物で拭いてから、僕に差し出した。

「今、今日こそ一太刀入れられると、そう欲を持った。その途端だ」

僕は、そのことが嬉しくて、腹から笑っていた。

「あの日、私を兄だと言って下さった。私には、今も深く刻まれています」

「そうだ。僕は、お前が頼りなんだ。父はあんな風だし、お前の顔付きや、声音から、世の中を知るしかない。勤めを言い渡されたとき、首尾よく行った時、少しは分かるつもりだぞ。お前は、命がけで、僕に、住処を見せてくれたんだからな。ただの忍びだとは思えなくなった」

霧丸は驚いたような、困ったような顔をした。

「困らなくてよい。ここ以外の場所では、僕は、物を考えないうつけ者だからな」

霧丸は、まだ稽古を続けますかと、困った顔のまま僕に聞いた。

僕は、霧丸の悲しげな顔の本当の意味を知らずに、また剣を構えた。

霧丸は、いつものように、最大の手加減をして、僕の相手をし、日が中点に達したのを確認すると、また僕の剣を飛ばした。

僕は、二人の間に生まれた違和感を無くす努力もしないで、淀城まで共をせよと言った。





淀城は、緩やかな流れと、花木に囲まれた戦には不向きな城だ。

大阪城の外堀の内側にひっそりと立っている。

どうして、母がここに住んでいるのか、僕は想像するしかなかった。

母は、美しいし、優しいが、世の中を捨てた所がある。

父には見せないが、僕が訪ねて行くと、弱気な所を見せるのだ。




「母上様、なんと良い日でしょう。桃の香がここまで届きますね」

僕は、そんな挨拶をして、母の前に進んだ。

「秀頼、悪い知らせか?殿は、何も話さぬ。淀を役に立たぬとお思いなのじゃ。話しておくれ。母は、お前の為なら、どんな難題でも解決しよう」

予想通りに、相当の悪い知らせだった。

僕は、持って来た書簡は見せずに、やんわりと話した。

「家康も、もう戦をかける気はないのです。僕によい花嫁を遣わすと言って来ました。殿は、受けると返事をなさいました。ですから、梅雨の明ける頃には、その姫は、この大阪の地に到着しましょう。年は六才。徳川家、千姫とおっしゃる方です」

母は、黙って聞いていた。

そして、しばらく考えた後、静かに口を開いた。

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