千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
しかし、甲賀の忍びである以上、主上の命に逆らうわけには行かない。

将来を誓った男にすべてを知られたとしても、果たさねばならない。

あかつきは、睡蓮草を摘み終わると、自分の小屋の雨戸を閉め青ツバメを見張りに立てて、秘薬を作り始めた。

後を誰かに譲り、命を終えるまで、誰にも見せてはならない製法だ。

摘んで来た睡蓮草からは、僅かな秘薬が取れた。

それを布に染み込ませ、印籠に忍ばせた。

誰の顔も見ぬうちに、大阪城に忍びたい。

そう思って身支度を整えていた。

男の足音が近づいたのは、その時だった。

一番会いたくはない相手だった。

しかし、彼は、小屋の外で、私を思い傷ついていた。

「くさびか、…」

声をかけた途端に、彼は私の目の前に現れた。

「誰も知らぬはず」

「それは、天井板の下のお人の話。私は違う」

「何をしに…」

「見ている。お前を。それしかできぬ。我が身を、お前に捧げよう。定めに負けてはならぬ」

我が身が熱いのより、男の体はもっと熱かった。

掟を破る事は、一つも怖くなかった。

そう思いながら、男の体が震えるのを感じた。




「私の気配が消えるまで、ここに」

くさびは、そうとだけ言って、出て行った。

しばらくすると、桃の原の先から、剣を合わせる音が聞こえて来た。

くさびと剣を交えているのは、間違いなく若殿だ。

私は、悲しみか悔しさか分からない涙を流した。






「霧丸、やはりおかしいぞ。なぜ息を乱す?なんだか今日は、一太刀浴びせられそうな気がするほどだ」

「どうしてお感じになるのでしょうか。こんなに小さな息の乱れを。やはり若殿は、不思議な方だ」

「忍びの息が乱れる方が、不思議ではないか?お前が来てから六年。一度だって息を乱した事など無いではないか」

「きっと…。私に目を向けて下さるからです。忍びは、親兄弟の顔を知りませんが」

僕達は、剣を合わせながら、いつも話をする。

剣は真剣だが、相手をする霧丸に刃が届く事など無いからだ。

「育つうち、親や、兄弟のかわりを見つけるんです。頭領だったり、仲間だったり」

この剣を払い飛ばす事が出来たら。

そんな欲を持った次の瞬間、僕の剣は、遠く飛ばされ、桃の木の根元に蒔いてある藁の上に刺さった。
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