千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
しのさんは、気楽にそんなことをいうが、すずさんはいたって真剣だ。

「お友達同士でも、ずいぶん、受け取り方が違うものですね。でもどちらも間違っていませんよ。才と言うのは、大切に育てれば、自然に花を咲かせるものなんです。師になろうと、ならなかろうとね。ただ茶の湯を大切に思っていて下されば、それでいい」

わたしは、すずさんの目を見て、頷いた。

それで通じたとは、思わないが、少なくとも、茶の湯から全く離れて仕舞うことはないだろう。

「お師匠様、私にそんな大それたこと…」

「いえそれでいいんです。すずさんが茶の湯を好きでいて下さるのが分かったから。それに、当主を務めよというわけじゃありませんから、気楽に楽しんだらいいのです」



わたしとすずさんの話しを聞いていた弟子達は、平静を装っているが、かなり動揺したようだった。

皆、自分の店を持つ旦那や、医者といった、社会的には力を持った人達だったからだ。

人格も、知識も備わっている自分が負けるわけがない。

彼らはそう思っている。

確かに、この流派を継がせると言うなら、知識も人格も金も、なくてはならないと判断するだろう。

しかし、広く世の中に茶の湯を広めていく、そういった役割なら、すずさんを適任だと考える。


今わたしの考えは、大きな川の真ん中で、上流を目指す小魚のように危うかった。

しかし、まだ非力ゆえ成し遂げられると信じられた。

自分の小ささも、そして本当の才能も、まだ見えてはいなかったから。







3 長政と市

娘達は、これで幸せに暮らせるだろうか?

あの日から、そればかり考えてきた。

夫を亡くしてしまったあの日から。





小谷の城は、桜の青葉につつまれていた。

静かな春が続くのだと、私は信じて疑わなかった。

しかし、静けさを破るものが現れた。

兄の送った軍勢が攻め入って来たのだった。



長政は、引き下がりはしなかった。

山城であることを生かし、善戦した。

その内、敵の真意を知り、長政はは愕然とした。

敵から、一通の書状が届いたのだ。

長政は、私に見せてはくれなかった。

私はどうしても知りたくて、夫が息絶えてから、読んだのだった。

夫は、私がここにいるとは思わなかったのだろう。

書状は懐で冷たくなっていた。
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