千姫の墓
千姫の墓
アフィリエイトOK
発行者:桜乃花
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
千姫の墓 第1章 江戸からの使者
すずさんは、少し下を向いた。

いろいろな事で、他の弟子達に負い目を感じているのは知っていた。

他の弟子達と違い、すずさんには、後ろ盾がないから。

親もなく、大きな御店の主人でもない。

しかし、立場の違いは、才とは関係ないものだ。

そして、口では、旨く伝えられない。


下を向いたすずさんの表情を見てわたしは思った。

すずさんは自分の才に気づいているのかも知れないと。

しかし、その才を育てる気があるかと言えば、有るようには見えなかった。


「すずさんには、大切なものがたくさんあるでしょう?その中でも茶の湯は特別らしい。大切にしてもらったお礼を、受け取って欲しいと言っていますよ」

「お師匠様、お礼とは、どんな事でしょう?私など、それが何かも分かりません」

「いずれ分かります。しかし、あなたのものだから、わたしには決められない。ただひとつ、教えられるのは、生かさなければ、死んでしまうと言う事です。どうか、受け止めて下さい。そうすれば、大きく育つでしょう」

「…お師匠様、私は茶の湯が好きです。でも兄が店を持てば、私はもうここへは通えないでしょう。だから……何かを育てるなんて、私には出来ません」


「茶の湯を大切に思っていればいい。焦る事など一つもない。簡単な事です」

すずさんは、本当は分かっているのだ。

でも、素直になってくれないのは、わたしの力が不足しているからか。




わたしの両親は、京では名の知れた袋物問屋を営んでいる。

その母から、すずさんのお兄様が、近々店を出すらしいと聞いていたのだ。


だから、こんな話をした。

しかしすずさんは、まだ返事をしてくれない。

かえって、しのさんが喜び、興奮している。

世の中は、こんなものだ。

我が心のように、思い通りに運ばないもの。

心に住み着いたあの方は去らず、わたしは茶の湯の宗派を継ぐことになった。

私は自分の心をがんじがらめにして、保身をしているに過ぎないのだ、師匠らしい顔をしながら。


「すずちゃん、凄いじゃない!そのうちお師匠様みたいに、お弟子を持つ日が来るかも」

「しのちゃん、やめて頂戴。そんなわけがあるもんですか。お師匠様は、せっかくだから、続けたらどうかって言って下さっただけよ」

19
最初 前へ 15161718192021 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ