千姫の墓
千姫の墓
アフィリエイトOK
発行者:桜乃花
価格:章別決済
章別決済は特定の章でのみ課金が発生いたします。
無料の章は自由にお読みいただけます。

ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

アフィリエイトする
マイライブラリ
マイライブラリに追加すると更新情報の通知など細かな設定ができ、読みやすくなります。
章一覧へ(章別決済)
千姫の墓 第1章 江戸からの使者
すずさんの点前には、意志が足りない。

どんな気持ちでお茶を点てているのか、それが伝わって来ない。

「すずさん、わたしは、今日はみなさんのお茶を頂くつもりです。だから、量を少なめにして下さい。言うのが遅くなってすみませんね」

すずさんは、驚き、しばらく、点てかけていた茶碗のお茶を眺めていた。

急に茶筅が止まったから、お茶は輝きを失ってしまったろう。

すずさんは、しのさんの方を見て、助けを求めた。

ただ目を向けただけだが、すずさんの意志は通じたらしい。

しのさんは菓子の乗った盆を持ったまま、すずさんの元に跪いた。

「すずちゃんどうするの?」

「自分でおさらいする時は、自分で頂くんだから、このお茶は、私が頂くわ。だから、お菓子を頂戴」

しのさんは、少し笑い声を立てた。

二人の心はつながっているらしい。

しのさんは、菓子を渡し、すぐに下がった。

すずさんは、わたしに礼をすると、菓子を味わい、自分で点てたお茶を飲んだ。

すずさんは、今度は、茶碗を眺めて迷っている。


わたしは、助け舟を出す事にした。

「濃茶の時は茶碗は変えないでしょう?今日の日よりに合わせたつもりです。その茶碗で点てて下さいね。本当に言い出すのが遅くなってすみません」

すずさんは、以外にも落ち着いていて、少しも悪びれる様子もない。

かえって他の弟子達の方が緊張しているようだった。

すずさんは、茶碗を清めると、しのさんを見た。

給仕の合図だ。

しのさんは、小皿に梅花餅をのせて、持って来てくれた。

わたしは、楊枝で小さくして、その一つを口にした。

残りは懐紙に取っておく。

茶筅の音が聞こえている。

わたしは、すずさんと礼を交わし、可愛らしく点てられたお茶を頂いた。

お茶は翡翠のように輝いて、舌の上に移されるのを待っている。

わたしは自分の罪も一緒に、味わった。

一瞬でも、弟子達を裏切る道を選ぼうとしたわたしのようにそのお茶は、苦く甘かった。

「いつもながら、結構なお点前でした。新茶の甘みを生かす、濃いめの点てかたで、おいしゅうございました。いつも今のように、お茶を上がる方の事だけお考えなさい。上の弟子達の目や、意見は受けるだけでいいのですよ」

18
最初 前へ 15161718192021 次へ 最後
ページへ 
ページの先頭へ