千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
わたしは、闇の中に落ちそうになるのを、こういう、初々しい弟子達に救われているのだと思う。

わたしの顔を見ながら、一喜一憂する、そんな穢れない心がわたしを助けてくれるのだ。



今日は、名の知れた飾り職人の妹、すずさんが、お茶菓子を買って来てくれる。

ずっと、親御の病を看ていたせいで、嫁ぐ年頃は過ぎてしまったらしい。

しかし、すずさんは、そんなこと気にもならないらしく、兄君が、自分の店を持てるよう、茶屋で働いている、可愛らしいお嬢さんだ。



「お師匠様、今日は三年坂の三春屋の梅花餅にしました。可愛らしいし、香りがいいんです」

「すずさん、いつもありがとうございます。わたしも、町での流行りが分かるから、楽しみなんですよ。もう春も終わりですね。今日は、趣向をかえて、野点を楽しみましょうか?」

わたしの提案に、すずさんは頬を紅くして、頷いた。

「野点なんて、初めてです。すごく、楽しそう。どう用意をしたらいいのでしょう?」

「どうしましょうか?椅子を出すか、毛氈を敷くか?今日は、地面も暖かいでしょうし、毛氈を敷いて、そこに座りましょう」

「どの辺がいいかしら、あの青い紅葉の下あたりなら、平らで座りやすそうですね」

「そうですね。毛氈は五、六枚でいいですよ。後、長椅子も三つ程出しましょう。椅子はここの小僧に頼みますから、すずさんは、ここから毛氈を出して、敷いて下さい。四角でも、違いにしても、趣が出ると思います」



わたしがなにか言うと、すずさんは、頬を紅くして、あれこれ働いてくれる。

それを見ている私の心は、陽を浴びたように、暖かくなる。

野点にしようなんて、思いついたのも、一瞬でも、苦しみから逃れさせてくれたからだと思う。


茶釜は、丸石の上に置き、炭を入れた。

毛氈の赤い色が、コケの緑に映えて、眺めているだけで、満足出来る。

こんな単純な感動を味わうとき、わたしは、自分の苦しみなど、ちっぽけな事だと気づくのだ。

しつらえがだいたい終わった頃、他の弟子達が集まり始めた。

「野点ですか。いやこれは美しい。陽の光も良い影を作っていますね。今日は来て良かった」

そう感想を述べたのは、呉服問屋の主人藤屋光吉だった。

老舗の主人らしく、見識があり、人格も立派な人だ。
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