千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
丁度、今のわたしと同じくらいのお年で、四十を過ぎていたはずだ。

けれど、その表情は、少女のように可愛らしい。

わたしの周りには、僧正の共が数人いたから、わたしはいつもを装うしかなかった。


北の政所様は、茶の湯を楽しんだ。


「茶の湯というものは、夢中になれるものなんですね。前に黄金の茶室で振る舞われた時には、美しいとしか思いませんでしたが。やはり松の宮様のお点前は、別のもなんでしょうか?」

「いいえ、別のもではありませんよ。高台院様の為にお点てしました。お心は、少しは明るくなられたでしょうか?」

「お恥ずかしいことです。まだこの身の内に、煩悩がすんでいます。それが、面に出てこようとする」

「煩悩など、御仏の元に召されるまで、消えるものではありません。それは生きる証し。わたくしは、まだ煩悩のさなかにおります」

わたしは、そう言ったほうが、慰めになろうかと考えた。

「でも、私の身の内にあるのは醜い獣なのです。この獣がいつか消えるのでしょうか」

わたしは、高台院様のあまりの素直さに、つい、心の鎧を解いてしまった。

「消えましょうとも。ご自分の心を醜いとおっしゃったが、わたくしも、皆もおなじ仲間です。苦しみながら、悟りを目指すんですよ」

高台院は、眉根のシワをゆるめて、にこりと笑った。

「松の宮様、私には新しい世界でございました。どうでしょう?私にご指導願えませんか?」


わたしは、嬉しさと共に、不安を感じていた。

何かが変わって行く。

私の中で何かが。

「高台院様のお力になれますなら、わたくしもうれしゅうございます。わたくしは、此方よりは少し下った、見城寺と言う寺で修行をしております。良かったら、ご住職に相談なさってみて下さい。僧正と此方のご住職は兄と妹。きっとお許しが出るでしょう」

高台院様の顔は、茶の湯と言う楽しみに会って、明るく、柔らかい表情に変わった。

慰めたいと思って声をかけ、明るい表情を見せて下さったのに、どうしてわたしは、喜べないんだろう?

わたしの胸は、母の姿を見失った子供のように乱れた。

いや、姉弟子のみつる嬢様を差し置いて、師の跡目を言い渡されたあの時の罪悪感に似ていた。

相手が喜んでくれているのに、素直に喜べない。

わたしはいま薄い不安の中にいた。

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