千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
「すぐに戻るからと言って下がったのですが、日が経つうち、心配になって来たところでした。お前達の師匠は、何か持病が有るのですか?」

「師は、息の通りが細く、季節の変わる時には、体調を崩すのです。奥様を亡くされてからは、女手はみつる様しかおりません。女の方なら気の付く事も、師には気付かないのかも知れません。しかし、命に関わるような事ではございません。すぐに戻るつもりでも、親子の間には、積るはなしもあるのでしょう」

「それならば安心してまちましょう。母が存命の時から、みつるは姉であり母でした。いないことがこんなに寂しいなんて、忘れていました」

淀君は、安心したように、微笑んだ。

茶々様は、どちらかと言えば、母君のお市様には似ていない。

しかし、湧き上がる美しさが、周りの人の目を惹きつけた。

わたしにも、その美しさは、よく分かる。

しかし、茶々様がどんなに美しくて、お優しい方でも、わたしは、どこかで避けてしまう。

顔に出すなんてできないが、茶々様と接するとき、わたしの心の中は、決して静かではいられなかった。

茶々様の事は子供の頃から知っている。

子供だった茶々様は、みつるの手ほどきを、喜びあふれる目で見つめていた。

わたしはいま、あの頃のように素直な心で、茶々様を見ることが出来ない。


胸に沸いてくる暗い感情を、どうしても、抑えられずにいた。

胸の中にあの方がいるからだ。

仏様の弟子だと言いながら、御仏の教えを裏切ったわたしは、もう極楽への道を歩く事は出来ない。






もう二十年も前の事だ。

あの日、僧正の共として訪ねた尼寺で、わたしはある尼僧にあった。

まだ心に煩悩を抱えて、苦しんでいた。

わたしは、誰しも通る道だと思い、茶の湯に誘った。

あの大殿様の奥方様である。

尼僧は、苦しげな眼差しで、もがいているようだった。

わたしは、仏の教えを説くよりも、茶の湯と言う世界を教えた方がいいと思った。



「高台院様、私は、茶の湯を人に教えているものです。よろしかったら、一度ご覧になってみませんか?」

わたしは、その時は、何も考える必要を感じなかった。

しかし、点前をみせているうち、わたしの胸の中は、その人で満たされていった。

すでに、自分ではその感情を止める事は出来なかった。
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