千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
床の間に、野菊の花が生けてある。

そして、きゃらの香りも、まだ残っていた。

その花には霧丸の優しさがあるように思えた。

胸の中でくすぶる、霧丸への罪悪感は、何を考えても消えはしない。


仕方なく、剣の稽古にぶつける事にした。

僕が着替え、朝飯をすます間も、霧丸はそばで立ち働いていた。

僕は、声をかける事が出来なかったが、でも、この繋がりを壊したくはない。

小姓に馬を用意するよう申しつけると、霧丸が、僕の馬を引いてきた。

僕が先に行くぞと言うと、霧丸はいつものように、御意と返事をした。

忍びの里が近付くと、霧丸は、僕の前に出た。

技で隠されている桃の里には、僕一人では行くことが出来ないからだ。

ここから先は、霧丸の馬の蹄の音を頼りに馬を駆るのだ。







今日は、弓を引きましょうか?と霧丸は聞いたが、僕は剣を習いたいと言った。

剣を交えたらきっと、霧丸と話が出来ると思ったからだ。

霧丸は、強く、優しい。

だから、僕から話さなくては。

霧丸の心に自分の心を届けたい。

僕は、真剣ではなく木剣をとり、稽古にのぞんだ。

剣のたてる音を聞きたかったのだ。

樫の木剣のたてる高い音は、僕の心を奮い立たせてくれた。

霧丸の清々しい瞳を見ていると、涙がわいてきた。

木剣を会わせたまま、僕は泣いた。

涙はやがて嗚咽にかわったが、僕は木剣から力を抜かなかった。


お前の恋人にあんな事をさせた父をゆるして。

そして、僕を許して。

今までみたいに、友達でいて。

心の中には、言いたいことは沢山あったが、霧丸に言ってはいけない気がした。

だから僕は、これからの事を話した。


「僕は、どんな事があっても死なぬ。だからお前は、何時までも僕のそばにおれ」

霧丸は、僕の目を見つめて、頷き、御意と返事をした。

霧丸の目には暖かい力がある。

僕はずいぶん元気を取り戻した。

泣きながら、着物が汗で湿るまで続けた。

「お前に僕は……」

謝りたい。

でも、そう言われたら、霧丸はどんな気持ちがするだろう。

「一太刀入れてみたい」

「たのもしいお言葉、霧丸うれしゅうございます」

霧丸は、僕の言葉を待っていたように、僕の木剣を、高く飛ばした。

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