千姫の墓
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/12/01
最終更新日:2012/10/13 14:39

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千姫の墓 第1章 江戸からの使者
1 江戸からの使者

僕の父は、少し前まで、天下人だった。

今も大阪城の住人である。

しかし、関ヶ原の戦いで家康にすべてを奪われた父は、まるで別人のように、変わってしまった。

大阪城の主は、今も父である。

しかし、父はすっかり覇気を失っていた。

江戸から使者が来たのは、そんな時だった。

使者の持参した書簡の中身は、一見してそれとわかる脅しだった。

僕が、江戸から来る姫と契りを結ばなければ、大阪城を討つと言うのだ。

以前の父なら、こんな脅しには乗らなかった。

しかし、今の父は、憤慨する様子もなく承知した。

僕は以前父が言った言葉を信じて、黙って父の意見に従った。

別の城で暮らす母の意見は分からなかったが、僕は母が、遣わされて来る姫に同情しているような気がしていた。

母も、戦で父親を失い、敵陣に嫁いだ姫だったからだ。

江戸から来る姫は、後ろに天下人がいるし、母は敗者の姫だったから、おなじには考えられないが、ある日、周りにいた人が、すべて居なくなる、その寂しさはおなじはずだ。

僕は自分を惨めだと思うよりむしろ、ただ一人、大阪に遣わされて来る姫に同情した。





江戸からの使者が帰って数日が経った。

今日は、午後から母のいる淀城を訪ねる予定になっている。

しかし僕はその前に剣をふるい、一汗流したいと思っていた。

僕をどんな時も見守り、鍛えてくれる、僕より4つ年上の忍の者がいる。

「霧丸よ、少し剣の稽古がしたい。お前の里まで行かぬか?」

僕は居室の天井に向けて話しかけた。


「構いませぬが、お出かけの予定は、いかがなさいますか?」

霧丸は、侍の姿をして、今は、僕の目の前にいた。

「母は訪ねるつもりだ。しかし、時間はいつでも良いのだ。その前に頭の中をすっきりさせたい」

「御意」

霧丸は、次の瞬間には、縁の外にいて、僕がそこに立つのを待っていた。

そんな彼に、僕の剣が、届くわけはなかった。

彼に言った事はないが、僕は霧丸を、兄か、友達のように思っていた。

僕の友人の多くは、その父親と共にあの世に行ったのか、逃げ伸びているのか、どちらにしろ、もう大阪にはいなかった。

だから霧丸は、僕の友人であり、外の社会を覗く窓だった。

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