そして僕はヒーローになった
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発行者:小川輝晃
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ジャンル:エッセイ・日記

公開開始日:2010/11/24
最終更新日:---

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そして僕はヒーローになった 第13章 あとがき
僕は今「俳優」って名乗れる仕事で生きてる。と言ったってまったくメジャーじゃないし、有り余るほど裕福に稼いでる訳でもないけど、「俳優」というカテゴリーを最大限に活用して、実写、アニメ、洋画、舞台、ラジオ、演出、それからモーションキャプチャなんていうCG作品の動きを創る仕事なんかにも携わらせてもらってる。
特撮作品に関わってから、僕の生活はがらりと変わった。1年間は撮影に掛かりっきりだったから、お世話になった倉庫の仕事もすべて辞めて、ヒーローとしての生活一色になった。また帰ってきたいなんてことも話したけど「ここはどこにも行けない人が飛び出すジャンプ力を蓄える場所だから、次に行っちゃった奴が戻って来ちゃいけないんだよ」と、島崎さんは笑って言った。
最終日、いつもと変わらず2人でトレーラーの荷降ろしを終えた僕らは倉庫の裏にある東京湾に続く川沿いのふちに腰掛けて、奢って貰った缶コーヒーを飲みながら結構長い間、話をした。
高校しか出ていない島崎さんは、その時42歳だった。大学に行かず倉庫で床を舐めるように働いてようやく課長代理に成れたらしい。後から入ってきた大卒の社員があっという間に上司になっていくなんていうドラマのような世界を本気で生きてる人だった。
「正直、羨ましいよ。」
天気がいい日には、ちょうど夕陽が沈んでく富士山のシルエットが微かに見えるビルの合間の空を見つめて、島崎さんがぽそっと呟いた。よく聞き取れなくて聞き返したら、尻についた砂を払うようにパシッと立ち上がって「もう二度と帰ってくんなよ」って看守さんみたいに真面目な口調で言った。
富良野塾を出てから4年もの間、ほんとに世話になった。ほんとにジャンプする為の力を貰ったんだ。
僕は今でも時々思い出す。
「テレビ観るからな」とか「いつでも連絡しろ」とか乱暴な惜別の言葉を受けた港区海岸の倉庫には、前を走る高速の排気ガスと潮の混じった川岸にしがみつく藻の匂いがしてた。
大阪の事務所で一緒だった門戸は松井誠さんという女形俳優に師事し、今では各地で座長公演を行うまでになってる。あのときの涙が、今の彼を創ってるはずだ。
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