そして僕はヒーローになった
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発行者:小川輝晃
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ジャンル:エッセイ・日記

公開開始日:2010/11/24
最終更新日:---

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そして僕はヒーローになった 第1章 前置き
それから僕は高校の先輩を頼って上京し、上石神井のワンルームに無理やり居候して俳優を目指すことにした。僕の才能を信じてくれた事務所の社長が東京に出ることを勧めてくれたからだ。
だけど、ずっと僕の中身は凍り付いたままだった。
そんな時に、僕は「パパとなっちゃん」ってドラマを観たんだ。
父である田村正和がお嫁に行く小泉今日子の言葉をドア越しに聞いて、一言も喋らず音も立てずにただぼろぼろと泣いてた。先輩がいたから必死に声を上げないように口を押さえたけど、我慢しようとすればするほど、大声でおんおんと叫ぶように僕も泣いた。
感動したんじゃない。悔しかったんだ。悔しくてたまらなかった。ほんとに失礼な言い方なんだけど、それまでずっと田村さんは芝居が臭いと思ってた。正直に言って巧いなんて思ったことがなかった。でも実は僕が知らなかっただけで、こんなに凄い演技の出来る人だったんだって思えたら、悔しくて悔しくて泣けてきた。

その日から僕は田村正和を「田村さん」と呼ぶようになった。

やれば出来る。
ずっとそう信じてきたけど、それはやれる場所を持つ人の言える言葉なんだね。高校まで僕は夢中で努力出来る場所を与えられていただけのこと。そんな簡単なことにやっと気付いた。
東京という大海に放り出された途端、僕は居場所を失った。俳優の仕事はそれが顕著に判るんだ。唄ならギター一本抱えて駅前でだって唄えるけど、1人で演技しようものなら改札横の交番からおまわりさんがすっ飛んできて「ちょっと来なさい」なんて呼ばれるのがオチだ。「やれば出来る」なんて、あまりにも浅はかだった。俳優だけじゃなくて、どんな世界だってそんなに甘いものじゃない。それは痛いほどよく判った。判ったんだけど、それなら僕に今出来ることってなんなんだろう。どんなに格好つけたって背伸びしたって、とにかく僕にはこの身体しかない。このちっぽけな身体で、身体だけで「やれば出来る」を実感するためには、いったいなにをすればいいんだろ。
四方を山に囲まれて生きてきた奈良の田舎者は、海の真ん中で灯台を見失ってしまった。
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