そして僕はヒーローになった
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発行者:小川輝晃
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ジャンル:エッセイ・日記

公開開始日:2010/11/24
最終更新日:---

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そして僕はヒーローになった 第1章 前置き
悶々とした僕は、まず形から入ってみようと大阪に出た。
幸運にも事務所に入れた僕は所属メンバーと合宿に行くことになり、「涙を流す」という訓練をした。俳優にとっては基本的な練習だ。
「病室で母親が横になってる。事故かなにかの理由で、もう二度と目を開けることはない。」
設定だけを与えられて、みんなの見ている前で演技する。空想の母親の亡骸に最後の一言を掛けて「泣く」だけの訓練。
20人以上はいたはずなのに、その中で泣いたのは僕だけだった。高々一粒二粒の涙だったけど、同胞の涙を目の当たりにしたメンバーからは拍手が起こった。元時代劇の大部屋俳優だったという講師もこれこそ演技の見本とでも言わんばかりに芝居がかった仕種で僕の肩をバシバシ叩いて豪快に笑ってみせた。休憩に入ってもみんなから「おまえはすごい役者になる」とか煽てあげられ調子にノってた僕を横目に、同期の門戸が講師に詰め寄ってた。
「悔しいです。」
流行りのお笑いみたいに小さくそれだけ叫んで、ぼろぼろと彼は泣き始めた。みんな一辺に静かになったかと思うと、一緒に泣き始める女の子もいた。
そのとき僕は「負けた」と思った。
だって、これが泣くってことだ。なにかに喜び、怒り、悔しがり、心を打ち震わせて頬を伝う涙のこと。門戸の気持ちは間違いなく僕の胸に刺さった。僕だけじゃない。見守るみんなの心を動かしたんだ。僕の行為は単に涙を落としただけ。嘘だと判ってて芝居を取り繕ったに過ぎない。
勝ち負けだけじゃない世界を選んだはずなのに、負けた。また負けた。悲しかった。きっと負けたってことなんかより、ちっちゃ過ぎる自分が恥ずかしかった。悲しすぎて、それから僕は泣けなくなった。人の心を動かしたくて俳優を夢見たはずなのに、僕は自分の気持ちすら動かせなくなってしまった。
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