そして僕はヒーローになった
第8章 箸休め
ここで、さっきちょっとだけ思い出してしまった僕のもうひとつ別の夢を語りたい。「はやく先に進め」と言う人はどうぞ7日目に行ってくださいな。
実は、あれはちょうど富良野塾に行った頃からだったか、どこでどう道を踏み外したのか判らないけど、僕はキャンピングカー屋さんをやりたいなんて大それた夢を見るようになってた。最初の頃はキャンプから派生して「オートキャンパー」とか「KAZE」なんていう情報誌を買い漁ってはキャンピングカーとかクルーザーいいよねなんて憧れてるだけのかわいいものだったんだけど、いろいろ調べていく内に(元来の凝り性が高じてしまって)日本の国土にマッチする程よいキャンピングカーがないことに気付いてしまった。
ハリウッド映画でよく見かけるトレーラーハウスやクルーザーでの生活に憧れたのも事実だしアメリカなんかで売られているキャンパーは大きいものだと幅2400mmもあって優雅この上ないんだけど、それこそ11トンのトレーラーサイズなんて馬鹿でかい代物じゃどう頑張ったって日本の街中を走れるサイズじゃない。せいぜいマイクロバス程度だ。だからって日本サイズのもので気に入るのがあるかっていうと、当時も日本製のキャンピングカーがあるにはあったけどまだまだ洗練というには程遠い、トラックに箱を載せましたってレベルのものしかなかった。
外装のデザインセンスも今一歩だったし、なによりこれは日本車の欠点ではあるんだけど、ベースとなる日本車の横幅は通常5ナンバーでは1690mm。今でこそ1800mmを越える3ナンバーが台頭してきているけど、当時はここが大きなネックだった。
どうしてなのかって言うと人が横になって眠れないんだ。キャンピングカーの規格では乗車定員として500mm×500mm以上の座席。就寝定員として1人につき1800mm×500mmのスペースが必要だけど、日本車でその就寝定員を確保しようとすると、なんとか縦に2人分を取るのが精一杯。そこで無理やりトラックの荷台に、はみ出すように横幅が1800mm以上のいわゆる箱を載せるんだけど、これがなんとも哀しくなるくらいにみっともない。ましてやせっかく日本人が造るのに「日本の良さが微塵も取り込まれていない」なんてずいぶんと横暴な感想を抱いて、僕は本格的に図面を引いた。
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