ファミレス
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発行者:新菜
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2015/11/15
最終更新日:2017/01/26 20:19

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ファミレス 第45章 歪んだ愛情?
(臣side)


オレの腕の中で
ぐったり眠る、◇の寝顔。


◇の身体は、オレのせいでもう
汗や体液でベトベトで

でもそんなのも構わずにひたすら、
愛しい身体を抱きしめる。


好きだ…

お前がこんなに…


何も考えたくない。
何も。


ただただ…◇の身体を抱きしめて
そのぬくもりを味わっていると

目を覚ませというように
携帯が音を鳴らした。


臣)……


◇を起こさないように移動させて

水たまりができていたベッドのシーツを
全部新しく、替えてやる。


臣)……ん、、


◇の身体を綺麗になったベッドに
静かに寝かせて

◇が朝、片付けようとしていた
目覚まし時計やディフューザーの破片も
全部綺麗に、掃除した。


臣)……


それから一人、寝室を出て
リビングのソファーに身を沈める。


臣)……はぁ……


一緒に眠りたかったけど、眠れない。


何も考えたくないのに
頭の中には、色んなことが浮かんでくる。


それを紛らわせるようにオレは
あらゆるものの手配を進めた。



「おみ…、お…み…っ///」


臣)…っ


さっきの◇の声が
頭の中に、こだまする。


「おみぃっ、…お…み…ぃっっ」


臣)…っ


「やぁっっ、イカせてぇっ///」


臣)……はぁ…///


オレを求めて
必死にねだりながら

懇願する◇の姿。


好きな女のあんな姿は、たまらない。


あいつがオレを呼ぶほど…

オレを求めてくれるほど…


胸の中の黒い闇が
少しだけ晴れていくようで…


でもまた、すぐに

飲み込まれる。


臣)……ッ


苦しくて…
うまく息が吸えないような感覚。


考えたくない。

考えたら…
おかしくなりそうで…


「それ」と向き合ってしまえば
気が狂いそうで…


臣)ハァ……ッ


現実逃避をしながら
狂いそうな自分を必死に抑えていると


気付けば窓の外はもう暗くて…


そろそろ◇の様子を見に行こうと
立ち上がったその時、

家のインターホンが鳴った。


臣)……


今のオレは…ちょっとしたことでも
冷静さを失いそうで

必死に理性を働かせて
そのドアを開けた。


「なんて顔してんの…w」


眉を下げて笑った子犬の両手には
スーパーのビニール袋。


岩)お邪魔します。
臣)……


岩ちゃんは袋をキッチンに置くと

何の遠慮もなく冷蔵庫を開けて
それらをしまい始める。


岩)とりあえず適当に色々買ってきたから
  何か食べなよー?
臣)……
岩)最低限、食事だけはちゃんとしてよ?
  二人とも。
臣)……


オレたちのことを見透かすように
岩ちゃんは困り顔で笑って見せた。


岩)ふぅ……


ソファーに腰掛けた岩ちゃんの横に
オレも腰をおろす。


岩)真面目な臣さんが
  仕事さぼるなんて。
臣)……
岩)まぁ俺もさぼって
  ココに来たわけだけどw
臣)……


オレが自分の膝を見つめていると


岩)責めてるんじゃないよ…w
  今日の仕事は別にいつでもいいやつだし。


そう言って、フォローしてくれた。


岩)でも明日はさすがにちゃんと来てよ?
臣)……
岩)…って、隆二さんが言ってた。
臣)……


明日は大事なレコーディングだ。


岩)みんな心配してるよ。
  健二郎さんのことも、臣さんのことも。
臣)……


ああ…
冷静でいたいのに…

その名前に、過剰に反応してしまう。


臣)健ちゃんはわかるよ、
  怪我してんだから。
岩)……
臣)でもなんでオレが
  みんなに心配されるわけ?
岩)……
臣)意味わかんねぇんだけどw
岩)……


オレの虚勢を見抜くように
はぁ…、と岩ちゃんがついたため息が

また、オレの冷静さを奪っていく。


岩)◇ちゃんは…?
臣)……寝てる。
岩)…ちゃんと…話、したの…?
臣)……


何が?


臣)話って何の話?
  「ちゃんと」って何?
  オレとあいつが話さなきゃいけないことが
  何かあるわけ?
岩)…っ


岩ちゃんは困ったようにオレを見て
ゆっくり口を開いた。


岩)あのさぁ…
臣)……
岩)一応俺、心配してココに来てんのね?
臣)…っ
岩)余計なお世話かもしんないけど
  臣さんが心配なんだよ。


先にそう言われないと
余計な世話だと言ってしまいそうだったオレの口。

心配してくれてんのはわかるけど
今は放っておいてほしくて…


岩)そんなあからさまに
  壁、作んないでよ。
臣)……


今のオレは…
誰かとまともに会話できる精神状態じゃない。


臣)悪いけど…帰ってくんない?
岩)……
臣)……
岩)…帰んないよ。


岩ちゃんの目が…
諦めて自分と話をしろって
そう言ってる。


岩)今日、健二郎さんのお見舞い
  行ってきた。
臣)…っ
岩)腕…包帯でぐるぐる巻きだったけど
  元気だったよ。
臣)……


◇を庇って、咄嗟に盾になった健ちゃん。


岩)❀ちゃんとも…
  落ち着いたらちゃんと話し合うってさ。
臣)……
岩)……
臣)……
岩)臣さんのことも…心配してたよ。
臣)…誰が?
岩)健二郎さんの話、してんだよ。


なんだよそれ…


臣)なんで健ちゃんがオレの心配するわけ?
  オレの何を心配してるわけ?
岩)……


ダメだ…
頭に血がのぼる。


岩)◇ちゃんと…
  何も話してないの?
臣)…っ


話したよ。

話したけど…

あいつは…


臣)…何も…言わねんだよ…っ
岩)…っ


ああ…
向き合いたくなかったのに。

目を逸らしていたかったのに。


臣)何を聞いても
  何回聞いても…っ
  ……何も…言わねんだよ…っ


涙が…勝手に…頬を伝う……


岩)それで…いいんじゃない?
臣)…っ


それでいいって…何が…


岩)何も言わない。
  それでいいじゃん。
臣)…っ


オレは岩ちゃんを睨んだ。


臣)いいわけ…ねぇだろ…
岩)……
臣)何も…言わない。
岩)……
臣)健ちゃんとのこと聞いても…
  ただ…泣くだけで…
  何も言わねんだよっ!
岩)だから!
臣)…っ
岩)それでいいじゃん!
臣)…っ


なん…で……


岩)臣さんは本当に聞きたいの…?
臣)…っ
岩)本当に知りたいの?
臣)……
岩)◇ちゃんの口から…聞きたいの?
臣)…っ


胸が…張り裂けそうになる。


オレは…
あいつの口で「それ」を言われたら
きっと、耐えられない。


臣)気が…狂うと思う……
岩)……
臣)……
岩)だったら…聞かなくていいじゃん。
臣)……っ


知らないままの方が幸せだって
そう言いたいのかよ…


でも…

でも…!!


臣)頭から離れねんだよ…っ!
岩)…っ
臣)健ちゃんは…◇のことが好きなんだ。
岩)……
臣)◇のことが…
岩)……


健ちゃんの◇を見る目が
好きだって…言ってた。

あいつの名前を呼んだ時も…

あいつを必死に守ろうとしてる時も

嫌ってほど
あいつのことが好きだって
大事だって

伝わってきた。


岩)……健二郎さんが
  勝手に◇ちゃんを好きになって
  無理矢理、犯した。
臣)…っ
岩)で、◇ちゃんを脅してた。
臣)…っ
岩)健二郎さんがそう言ったんだ。
臣)……


確かに健ちゃんはそう言った。


岩)臣さんに女を盗られた腹いせに
  同じことをした。
  ただそれだけだよ。
臣)…っ
岩)悪いのは全部、健二郎さん。
臣)…っ
岩)それで…いいじゃん。
臣)……そんなの…嘘だ。
岩)……
臣)嘘なんだよ…ッ!!!
岩)……


健ちゃんは確かに
オレにそう言った。


でも…


臣)そんなの嘘だって…
  あいつの顔を見ればすぐにわかった。
岩)……
臣)あいつは……
  ……あいつは……


「健二郎くん…っ!!」


泣きながら健ちゃんを見つめる
◇の顔を見て…


臣)…あいつも……
岩)……
臣)健ちゃんの…ことが…
岩)……


ダメだ…

涙がにじんで…

言葉が出てこない。


岩)二人が…どんな関係だったか
  そんなの…どうでもいいじゃん。
臣)……
岩)終わった話でしょ?
臣)……は?


何を…言って…


岩)◇ちゃんは臣さんのことが好きで
  臣さんのそばに今、いるんだから。
臣)……


だから全部目を瞑れって…
そういうことかよ。


臣)いくら…考えないようにしても…
  頭に浮かんでくんだよ…ッ!!
岩)……


ずっとオレのそばにいた◇が…

オレを好きだって言ってくれてた◇が…

いつ、健ちゃんと…って…


臣)あいつを抱いてても…
  健ちゃんの影が消えない…
岩)……
臣)気が狂いそうなんだよ…ッ!!


ガシャン!!!!


臣)はぁ…っ、はぁ…っ
岩)……


岩ちゃんは…

オレが割ったグラスの破片を
静かに拾い集めて

口を開いた。


岩)随分勝手だね、臣さん。
臣)…っ


勝手…?

オレが…?


岩)◇ちゃんを責めてるの?
臣)…っ


オレは…
あいつを責めてるわけじゃ…


岩)同じこと、自分だってしてたくせに…
  散々してたくせに…
臣)…っ
岩)都合良すぎない?
臣)…っ


だって…

オレは…


臣)オレは…気持ちは一度も動いてない。
岩)……
臣)何度そういうことをしたって…
  どの女にも…一度も…
岩)…だから◇ちゃんを責めるの?
  気持ちが動かなきゃ
  身体は何をしてもいいんだ?
臣)…っ


岩ちゃんが責めるようにオレを見る。


岩)じゃあ…◇ちゃんだって
  気持ちが全く動いてないなら
  健二郎さんと寝たって
  問題なかったの?
臣)…っ


そんなわけ…ない。

ありえない。

想像したくもない。


岩)そうじゃないでしょ?
臣)…っ
岩)臣さんが…気持ちは動いてないって
  割り切って遊んでたって
  ◇ちゃんは傷ついてたんだよ…
臣)…っ
岩)泣いてたって、言ってた…
臣)え…?
岩)臣さんと❀ちゃんの…見た時…
  泣いて泣いて…
  しばらく泣き止まなかったって…
  そう言ってたよ。
臣)…っ


心臓がギュッと…鷲掴みされたように
苦しくなった。

泣いてる◇の姿を想像すると…

あいつを傷つけたって思うと…

胸が痛くて…


でも…


「そう言ってた」って…誰が…?


傷ついた◇をなぐさめたのが…
健ちゃんなわけ…?


しばらく泣き止まなかったって…
そんな◇を…健ちゃんは…


ああ…ダメだ…
頭がおかしくなりそうだ。


岩)でも◇ちゃんは…
  それでも臣さんが好きだから
  そんな臣さんの過去を
  許してくれたんでしょ?
臣)…っ
岩)生まれ変わった臣さんを
  受け入れてくれたんでしょ?
臣)…っ


泣きながら
「知ってた」と言う◇に

オレは何度も謝って…

あいつはオレを…許してくれた。


岩)なのに臣さんは
  ◇ちゃんを許してあげられないの?
臣)…っ


だって…

「許す」って…何を…?


健ちゃんとのこと…
何も事実がわからなくて

それを確かめる勇気もなくて


なのに「許す」って…

まるで「それ」を認めるみたいじゃないか。


オレはあいつに何度も聞いたけど
あいつが何も言わなくて

どこかでほっとしてるんだ。


あいつがもし…
認めるような何かを口にすれば

オレは多分、正気じゃいられない。


きっと本当に…
頭がおかしくなってしまう。


岩)小さい男だね、臣さん。
臣)…っ
岩)その程度の気持ちなら
  健二郎さんに譲ってあげたら?
臣)……は?


譲…る…?


岩)◇ちゃんのこと許せないなら
  愛せないなら
  健二郎さんにあげなよ。
臣)ふざけんな!!!!
岩)…っ


何…言ってんだよ…

ありえない。


臣)オレは…あいつが好きなんだ。
岩)……
臣)オレには…あいつしかいない。
  あいつしかいねんだよ。
岩)……


好きなんだ。

こんなに…
気が狂いそうなほど…

◇のことが。


あいつを失うなんて…
あいつがいない未来なんて…

考えられない。


臣)……っ


オレは震える手を、膝の上に戻した。


岩)健二郎さんが悪いだけ。
  ◇ちゃんは何も悪くない。
臣)…っ
岩)そう言った健二郎さんの言葉を
  信じてあげるか…
臣)……
岩)何も言わない、言えない、
  ◇ちゃんを…
  まるごと受け止めてあげるか。
臣)…っ
岩)どっちかしかないでしょ。
臣)……


岩ちゃんの言葉が…
重く、心にのしかかる。


臣)オレ…本当に小さい男だな…
岩)……
臣)岩ちゃんの言う通り…
岩)……
臣)…っ


自分が…情けない。


臣)あいつが…
  オレを選んでくれたなら…
  それでいいって…
岩)……
臣)あいつともう一度
  歩いていけばいいのかも
  しんないけど…
岩)……
臣)…っ


心は…そんな単純じゃなくて…


岩)泣きすぎだよ…
臣)…っ


岩ちゃんがそっとティッシュの箱を
渡してくれた。


臣)……
岩)……
臣)オレ…ほんとに…
  気が狂いそうなほど…
岩)……
臣)あいつが好きで…あいつが大事で…
岩)…そんなの…知ってるよ…
臣)……っ


喉が詰まって苦しい。

なんでオレ…こんなに泣いてんだろ…


岩)……
臣)あいつが…オレじゃない誰かを
  好きになるとか…
岩)……
臣)オレ以外の男に…
  抱かれ…てるとか…


声が…震える…


臣)そんなの一切…考えたくない。
岩)……
臣)考えられない。
岩)……
臣)…事実がどうあれ…
  そうかもしれないって
  考えただけで…
  気が狂いそうで…
岩)……
臣)オレ…
  あいつを抱いても…
  ……イケないんだ。
岩)……え?
臣)……


昨日…あんなに抱いたのに
オレは一度もイケなかった。

それから…
オレは一度もあいつと繋がってない。


あいつをイカせるばかりで…
オレは…


岩)勃たなくなっちゃったの…?
臣)…そうじゃ…ないんだけど…
岩)……そんなに
  精神的にダメージだったってことか。
臣)……


でもそんなのは…
岩ちゃんの言う通り
自分勝手な話で…

オレだって
散々あいつを…悲しませるようなことを
無自覚に続けてきてたのに。


臣)あいつ…ほんとは…


こんなこと…
考えたくもないけど…


臣)健ちゃんが…好きなのかな…
岩)…っ


なんでこんなに
涙が止まらないんだろ…


岩)泣かないでよ……
臣)ごめん……


オレは…
こんなにあいつが好きだけど…

あいつがもし

健ちゃんを好きなら…


臣)……っ


ダメだ。

その先は…脳が拒絶してて
言葉に出来ない。


しばらく二人、口を閉ざしたまま
どれくらい過ぎただろう。

オレの涙が止まったのを確認すると
岩ちゃんはゆっくり立ち上がった。


岩)じゃあ…そろそろ帰るわ、俺。
臣)……ん、ありがとう…
岩)……
臣)……


玄関まで見送ると
岩ちゃんがオレの肩を叩いた。


岩)何が正解かなんてわかんないし…
  正解なんて…ないのかもしんないけど…
臣)……
岩)……
臣)……
岩)辛い時は…俺にも頼ってよ。
臣)…っ
岩)仲間に、ちゃんと…頼って。
臣)……
岩)一人で抱え込んで
  歌えなくなったり…
  もう、しないで。
臣)……


本当に心配してくれてるのは
痛いほど、わかる。


臣)わかった。……ありがとう。
岩)……うん。


一人になったリビングで
オレはまたソファーに身を沈めて
目を閉じる。


何が正解かは…
オレにもわからない。


思考回路も鈍ってて…

マトモな判断なんて
今はとてもじゃないけど、出来ない。


いろんな考えが
行ったり来たりしてて…

唯一、揺るがないものがあるとすれば
オレがあいつを好きな気持ち。

ただ、それだけ。


臣)……


健ちゃんの影を消し去りたくて

オレを刷り込むように
あいつの身体を抱いた。


オレに感じてほしくて…

オレの名前を呼んでほしくて…

オレを求めてほしくて…


オレのことが欲しくて欲しくて
◇が狂ってしまえばいいって

そんなことまで、思った。


そうすれば
◇はオレしか見えなくなって…

心も身体も…オレでいっぱいになる。

そう思って…

泣きながら欲しがるあいつに
何度もひどいことを…


オレの愛情は、歪んでる。




……カタン。



臣)…っ


◇)……お……み……



ほら…、オレの名前を呼ぶ、愛しい声。



◇)お…み……



オレを求める、愛しいこの声が

こんなにもオレの心臓を、
縛り付ける。


愛してる。


愛してるんだ。
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