父さんも母さんもアイシテル
第3章 実の親が現れて・・・(1)
父さんが言った。
「だから、とりあえずは良介に稼いでもらうのが一番…」
「そんなこといっても、良介の稼ぎだけじゃ無理よ!」
僕は体が震えるのを感じた。
「それよりも、この時計見てよ。」
その父さんの声に、僕の心臓がどきりと鳴った。
「前のお父さんにもらったっていうからさ、取り上げたんだ。」
「それもひどいことして…可哀相じゃないの…」
「明日売りに行こうと思うんだ。」
僕は一瞬頭に血がのぼったが、ふと思った。
売ってくれれば、取り返せる。買い戻せばいいんだ。…どこの質屋に行くかさえわかれば…。
だが、すぐに無理だと思った。通帳をすべて取りあげられてしまったんだった。財布に入っているお金は数千円しかない。…きっと取り返せない…。
「駅前の質屋に行ってみるよ。」
「ねぇ、あなた。」
「なんだ?」
「もっと良介に優しくしてあげてよ。」
僕はその母さんの言葉に少し安堵した。母さんさえ味方だったら…。
だが…。
「…良介に嫌われたら、今の生活だってそうだけど、私たちの老後、誰が見てくれると思う?」
僕はその母さんの言葉で戦慄を覚え、とうとうキレた。
ドアを思いっきり開いた。
父さん達が驚いた目で僕の方を見た。
「良介…!」
僕は食器棚を開け、食器を手に取ると、父さん達がいない壁に向かって投げつけた。
父さん達を傷つけるつもりはない。だが、暴れずにはいられなかった。
父さんが、反対側の部屋の奥に逃げた。母さんがやめて!と叫ぶが、僕には近寄って来なかった。
僕は次から次へと、食器を壁に投げつけ、割った。
父さんが電話を手にした。
「もしもしっ!…息子が暴れて…」
僕は構わず、食器を割り続けた。
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