父さんも母さんもアイシテル
第3章 実の親が現れて・・・(1)
……
施設の応接間に通された。
そこには、父さん達よりも大分年のいった夫婦が座っていた。
「良介!」
「良介!…ああ、大きくなって!!」
母さん…らしき人が僕に抱きついてきた。父さん…らしき人は、母さんの傍に立って、涙ぐんでうなずいている。
僕は感動も何もなく、ただ立ちつくしている。
「今までごめんね。…迎えにこれるかどうかわからなかったから…ずっと黙っていたんだけど…」
母さん…が、涙をハンカチで拭いながら言った。
「本当に辛い思いをさせたな。…さぁ、家へ帰ろう。」
「!?…え?今!?」
「もちろんだよ。…どうして?」
「だって…僕の…荷物とか…」
そう言いながら、口をつぐんだ。もう前の父さん達に会えないなんて嫌だ…。そう言いたかったが、言ってはならないと思った。
「そうか…そうだな。じゃぁ、車で前のお父さん達の家まで連れて行ってやろう。荷物はたくさんあるのか?」
僕は首を振った。考えてみれば、パジャマとか服とか…大した量はない。
「それなら良かった。行こう行こう!」
本当の父さんが応接室を出て行った。本当の母さんが僕の腕を取り、僕をうながした。
……
僕は部屋でかばんに荷物を黙ってつめていた。何故か涙も出てこなかった。
…前の父さん達が、僕のそんな姿を黙って見ていた。
「…良介…元気でな…」
父さんが言った。僕は声を出すと泣き出しそうなので、何も答えなかった。
「良介…メール…くらいは…出せそう?」
母さんのその言葉に僕はうなずいた。
「…メールちょうだいね。」
僕は再びうなずいた。
……
僕は玄関を一緒に出ようとする、父さんと母さんに言った。
「本当の父さん達が…外にいるから…ここでいい…」
僕はやっとの思いで、父さん達に背を向けたまま言った。
「そう…か…。わかった。」
父さんが言った。母さんがたまらずに泣き出した。
「…今まで…ありがとう…。とても…幸せだった…」
僕はそう言うと、玄関を開けた。
そして飛び出すように外へ出た。
涙が溢れ出てきた。
僕は、本当の父さん達の車の後部座席のドアを開き乗った。
車が発進した。
僕は振り向くことなく、ただ両手で顔を覆って、嗚咽を必死に堪えた。
運転席にいる本当の父さんも、助手席に座っている本当の母さんも何も言わなかった。
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