変わり者達の白昼夢
第1章 仕事
外は近代文明の発展の証とでも言わんばかりの、同じ背丈の建物が、街を一つの迷路にするが如く区画化されており、街灯も等間隔、路面電車とバスと車は決められた道を走り、ただ人間だけが乱雑に動き回る。
そんな外の風景を、自分の事務所から眺めるのは、ここ華村探偵事務所の所長、華村薫である(はなむらかおる)。
彼女は何かをするでなく、ただなんとなく外を眺める。その理由は簡単だった。
「暇っ!! 」
おもむろに眉間にしわを寄せ、般若のような形相で言葉を発するが、虚しく宙をさまよい泡のように消えるのみ。
それを聞いていなかったのかと、首だけを背もたれから投げ出し工法を見ると、逆様になった副署長が眼に映る。
彼の名前は花埼寿也(はなさきひさや)。丁度お茶を沸かしている最中だった。
いつものことなのでと、花埼は無視を決め込み、自分の分だけのお茶を入れて応接用の椅子に座り、応接用の机にお茶を置き、手を伸ばしてカステラを取り出し、くつろぐ体制を作った。
そう、所長の机は一つバカでかいものがあるのにもかかわらず、花埼の机は無い。最近花埼がはまっている反抗理由だ。
「茶ぁ飲んでる暇あったら、仕事の一つや二つ稼いで来い」
「また役人さんか、斬賭(ギルド)連盟に怒られますよ」
「知るか、こちとら人命救助ですよって……あぁ、頭に血が……」
薫は至って真面目だったが、自分のふざけた体制を反省し、椅子をクルッと反転させ、花埼の方へと体を向ける。
「とにかく、私にもカステラ」
そんなこんなで一日が今日も過ぎて行きそうだった。
花埼からカステラを受け取ると、薫はまた通りの方へと体を向け、せわしない人の波を観察する。騒ぎが起きないかどうか、仕事が舞い込んでこないかどうか、彼女は真剣に、別の言葉で言いかえれば、御金欲しさに外を監視する。
すると、視界の右端、窓からギリギリ見えるか見えないかの位置で人が騒いでいる。薫は窓を開けて体を乗り出し外を見ると、遠くの通りに黒い塊のようなものが見える。
薫は嬉々とした表情を浮かべ、カステラを一気に口に頬張り、駆け出しながら颯爽と花埼のお茶を盗む。
「あーっ!! 」
「仕事だ寿也、支度しな」
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