果てしなく長い物語
第1章 果てしなく長い物語 一章 幼少編
「千秋、子供を怒鳴るのはやめなさい」
おばあちゃんの声が鋭くなる。
それから僕たちのほうを振り返り、穏やかな顔で口を開いた。
「龍一、龍也…。お願いだからおばあちゃんの言う事を聞いてくれるかい?」
右の手首から流れる赤い一筋の血が、僕の視界に映る。
「……」
「大丈夫だから、部屋に入ってな」
そんなに血が出ているのに大丈夫な訳がない。
「……」
僕は返事ができなかった。
「龍一、おばあちゃんは大丈夫だよ。お願いだから部屋に入ってて、ね?」
「うん……」
僕は龍也の手を引いて部屋に戻った。
ドアを閉めると、何かが壁にぶつかった音が聞こえてくる。
見えないながらもおばあちゃんがママに突き飛ばされたんだと、頭の中でリアルに想像できた。
「何が大丈夫だからだ! うちの子たちに何を吹き込んでいるんだ!」
ママのキンキン声がドアを挟んで聞こえてくる。
龍也はその声にビックリして泣き出してしまう。
僕は頭を撫でてしきりになだめようとした。弟を可哀相に思ったのもあるが、その泣き声で、ママがこっちに来たら嫌だという気持ちが強かった。
おばあちゃんは今、一体、どんな目に遭っているのだろうか。
止めに入れない自分が、非常に情けなかった。
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