妖怪伝奇帖~浅篠原陰陽師秘録~
第1章 第壹幕「亊之始」
切っても切れない腐れ縁”なのだという。
「お、そんなこと言ってると、オレが蘇芳を横取りしちまうからな。」
「む、益々聞き捨てならん! 己葛城、善い加減にしろよ!」
「はぁ、二人共仲が良いんだねぇ。」
「「……はい?」」
言ったままである。二人とも何やら言い合っているが、とても仲睦まじく見えたので、其のまま述べただけである。
「あ、あのねぇ、沙織……」
「うむうむ、仲が良いのは善いことだ。うん、善い善い……」
「勝手に一人で納得しちまった。」
「ああ、こうなった沙織にはもう状況を説明しても無意味なんだよね……」
「「…………」」
暫しの沈黙が周囲を包む。私自身はちっとも気まずいと思っていない。
「んー、じゃあオレはこれで……」
「うん、分かった……」
宗輔が席に戻ろうとした直後……
「みんなっ、元気してるかぁ!!」
……盛大に開く教室の扉。何か爆発音のようなものも聞こえた気がする。
「ん、どうした? みんな、元気が無いぞ。ほら、声を合わせて……今日も張り切って往くぞ、おーーっ!!」
「おーーっ!!」
「ぉー……」
「みんな声が小さーいっ!! 蘇芳君を見習うんだ!」
「はぁ……」
楽しい、実に楽しい。この朝のやり取りは去年から続くものだ。先程入ってきた熱血体育会系教師こそ、二年連続で(恐らく三年目も)我々壱組の担任をしている(であろう)赤坂忠(あかさか ただし)教諭である。
「先生と合わせられるのなんて、沙織ぐらいなもんだよ。」
「然うなのかなぁ。とっても楽しいから、其の内みんなも馴れると思っていたんだけど。」
「厭、我々にはあのノリについて行くことが困難なのであります、ハイ。」
「ふぅん……」
苦笑いしながら鈴鹿は言う。今一分からないが、その表情で一応の納得をする。
「よし、一段落着いた所で出席を取るぞ。」
名簿を手に、教諭が出席を取る。一通り周囲を見回した後、一つだけ空いた席を見た。
「奈良橋は今日も休みか。誰か、事情を聞いてないか?」
教諭の問い掛けに、答える者はいない。薄くざわめきが起こっている中、首を傾げている者もいる。
「ねぇ、鈴鹿ちゃん。奈良橋さんって何処に住んでるか知ってる?」
「うーん……聞いたこと無いしなぁ……」
「そうなのか……」
何だろう、変な感じだ。
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