宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
紫の心が柔らかく揺れたのが、伝わって来た。

「看病をありがとうございました。私は元締めを訪ねてみます。なにしろ休んでしまいましたからね」

「朝かゆと元締めからの手紙を今持って行くわ。要が戻ったら、今関わっている勤めのけじめをつけてほしいらしいの」

「そうですか。何から何まで、お世話になりましたね。私は、ずいぶんあなたに甘えて来たんですね。これからは、あなたを一人にはしません。私も一緒に考えます。だから、泣かないで下さいね」

紫の心は、言葉には出来ない表情を示した。

「嬉しいわ。私達本当に仲間になれたのね。どんな時も、要の力になるわ。私、もう泣いたりしない」

私達は、小紋の紋様のように、どこからが紫で、どこまでが私なのか分からないほど、自然に溶け合った。

私の情けない邪心が、紫に伝わったのか、隠されていたのか、私には分からなかった。

しかし、廊下の向こうからトントンと言う紫の足音が聞こえて来た時、私は、邪心と呼んだ自分の劣情さえ、大切なものに思ったのだった。






「あの若い僧は…」

囁いた声は太く、その男の人生を語るように真っ直ぐだ。

紺の羽織には、屋号らしき縫い取りがあった。

男は、寺の庭で砂を掃く僧をただながめていた。

そして、提灯を灯す時間になると、背を向け、どこかに消えていく。

ここ幾日かの出来事である。

立派な背中に似合わず、男は切なそうな顔をして、帰って行く。

いつも、夕暮れ時の僅かな時間を、楽しみにするように、男は、現れる。

しかし、帰り際、男の表情は、悲しげに変わっている。

男は今日も現れたが、目的を達せられず、がっかりした様子で帰って行った。




男は諦めたのか、その日以来、寺を覗かなくなった。






すっかり梅雨があけた頃、男は、十六、七の娘を連れて、また寺を訪れた。

手桶に水を汲み、娘は花を携えている。

花を供えた墓石には、代々、は組の墓とある。

墓の中にはきっと、男の妻が眠っているのだろう。

娘は帰り際に、母さんまた来るわね、と可愛らしい声で言った。

男は、何か話があるらしく、娘を先に帰し、寺の住職を訪ねた。

しかし、住職を含め、周りの僧は、目をつり上げ、男を追い出さんばかりに睨みつけた。

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