宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
紫は、部屋を出て行く時、無理やり笑顔を作ったが、心は、泣いてはいなかった。

強く暖かい心は、私のように欲深くはない。

ただ、私の体を気遣い、私の苦しみを嘆いていた。

私は、感情を洗い流すため、ゆっくり立ち上がった。

誰とも会いたくはないが、とても寂しかった。

善三さんと話しをしたら、すべて分かってしまうんだろうな。

私は、覚悟を決めて、重い体で立ち上がった。




紫が心配しているのが分かったが、なんとか風呂場まで行き着いた。

「善三さん、そこにいますか?癇酒の銚子でずいぶん暖まりました。ありがとうございます」

「要らしいな。清らかなままか…」

「困りました。なんと答えてよいか…」

「まだ僧になる気なんですね。前にも言ったがもう少しとゆっくり考えたらどうです?それだけが修行じゃないはすですよ。」

「着替えは私が用意します。浴衣も何も私が今日のうちに洗っておきますから、ゆっくり暖まって下さい」

私は、掠れた声で礼を言う。


垢じみてしまった着物はともかく、汚れた下着を洗ってもらうのは気が引ける。

私が、下着の話をしようとすると、善三さんはそれを遮った。

善三さんもまた、妙弥の大切な理解者だ。


「私は始め、寺に捨てられた事を恨みました。人殺しになる者に、経を教えるなんて、非情だと思いました。でも、今思うのは、それこそ真理だと言うことです。私の親が私の身の上を知るわけはないし、寺に捨てられるのが習わしの子だったと聞きました。でも、私には、この修行が必要でした。親の為にも、私は悪人にはなりたくない。それだけです。どうか思いを遂げさせて下さい」

薪場から善三さんの小さな声が聞こえた。

「要。あなたは清らかな人だ。きっと、しぬまでその清らかさを持って行くんだろうなぁ。私は羨ましいですよ。私のように、すぐに禁を破ってしまう男には、その強さは、羨ましくてならないですよ」

私には、私を強いと言う善三の心が、慰めの言葉に聞こえた。

「強くなど…。惑い、つまづきやっとのところで生きているのに」

「道に外れたことなどないじゃありませんか。紫ちゃんの香には負けてしまうのかと思っていましたが、それすら退けた。それを弱いなどと言える者はいませんよ」
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