宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
紫の目からは、また涙がこぼれた。

私は、その涙に心を乱されていた。

「紫さんその事は、私とあなたの秘密だ。元締めにも、亀さんにも、言ってはいけない。君は、風聞きだけで十分役割を果たしてる。約束だよ」

紫は、黙っていた。

今は、私から紫の心には入れない。

しかし、紫には私の心が分かるらしい。

油断して、私は紫の事を考えた。

迂闊だった。

今更遅いが、紫には聞こえるのだ。

私の心が聞こえるのだ。

「いつからだい?いつから聞こえているの?」

「あなたの心が聞こえ始めたのは、黒くまの事件の時から。夜の読経の時、私の心の中にあなたが入って来た。その夜眠れなかったわ。そうしたら、翌朝死にたくないって…風聞きじゃないのはすぐ分かったわ。声の大きさが全然ちがうの」

「そうか、人の心が聞こえるなんて、負担だったろうな。力を消す事が出来ればいいのにな」

「あなたの心が暖かくて、清らかだったから、すごく嬉しかった。負担になんか思わない。病気の時くらい、私に頼ってよ…」




紫は、私の手に熱いお茶を持たせ、黙ってしまった。




「あなたを苦しめるつもりはないの、でも、今日は看病をさせてほしい。看病させてくれるなら、もう逆らわないと約束する」

私は、自分の罪深さに、下を向いた。

そして、気づかぬうちに、泣いていた。

心を聞く事の出来る人の前で、私の心は、裸になって甘えている。

甘えるばかりか、僧であることを捨てようかと迷っている…

「許して下さい。弱い私を。隠しきる事さえ出来ない私を…」

私は茶碗を置き、善三さんの元へ逃げようとした。

「お湯を頂いて来ます。お願いです、その間に、あなたは下がって下さ…」


そう言う前に、紫の甘い香りが目の前に迫った。

そして、紫の唇で私の言葉は封じられた。

私の腕は、役に立たず、ただ紫の暖かさを享受していた。

その時、紫の心が見えた。

何の他意もない、私に対する愛情。

御仏の大愛にも代わるほど大きな愛だった。

もしも、私に母親があったなら、こんな風に愛してくれるのかも知れないと感じた。

私は、生まれて来る幾つもの欲を、紫に聞かれたくなくて、離れて欲しいと心の中で願った。

「あなたが眠ったら看病に来るわ。あなたを苦しめるのは嫌だから」
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