宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
何かをきっかけにして、紫さんの心が手に取るように分かるようになる。

しかし今は、心の扉は閉ざされていた。

紫は、私の手足をさすりながら、泣き出した。

もう寝た振りは出来なかった。

「紫さん、泣かないで。私は、もう大丈夫です。湯につかれば、元に戻りますよ。心配をかけて悪かった。でも私には、紫さんを危険なめに合わせる事は出来ないんです」

「どうしてよ!私だって鎖なのに。私だって、深力を持ってるのに」

紫は、私の枕元に、涙の粒を飛ばしながら、詰め寄る。

「…」

私は言いよどんだ。

紫さんを大切に思うから。

あなたが好きでたまらないから。

だから、ただあなたを守りたいんです。

私は、告げる事無く、目を閉じた。

紫は、私の体調を気遣い、それ以上話さない。


「…起きられる?お燗した酒とお粥があるわ。器を持てば、体が暖まる。食べなくていいから、少し起きてみない?」

私は頷いて、起き上がったが、まだ体の芯が震えていた。

しかし、癇をした銚子を両手で握りしめると、そこだけ震えは止まった。


私は粥や癇酒にではなく、ぐしゃぐしゃになった顔に、受け入れる事の出来ない、紫の愛情を感じた。

「あぁ本当に暖かいな。木から落ちなくて良かった」

紫は、少し安心したらしく、また泣き出した。

「紫さん、粥を下さい。よく考えたら、今日は何も口にしていなかった。円生寺では、手をつけずに出てしまったから…」

紫は、はっとしたように私の手に茶碗を持たせた。

粥の湯気が涙を誘ったが、涙を飲み込む事には、もう慣れていた。

私は、嗚咽を飲むように、粥を流し込んだ。

体は、ぶるっと震え、徐々に暖まり始めた。

「暖かい…」

情けないが、それしか言えなかった。

紫になんと言ってやったらいいだろうか?

私には見つからない。

だから、弱った振りをして、私は黙っている。

「鳶、どうしてそんなに苦しむの?どうして僧でなくてはいけないのよ」


「私は、善人になりたいんです。だから、修行している。あなたには分からなくとも、私には、意味のあることなんです」


「いつも、鳶のあげるお経が子守歌だった。鳶の声が明るいと、明日も大丈夫と思えたわ。あなたの心は…」

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