宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
私の心臓は、バタバタと騒いでいる。

熱のせいか、紫の髪の匂いのせいか…

離れなくては。

そう思ったが、私は、紫の上にかぶさるように、また気を失った。





揺り起こされるように、紫の声が聞こえる。

それと同時に、善三さんの優しい声も。

目を開けると、私は、濡れた法衣を剥ぎ取られ、浴衣を着せられて、布団の中にいた。

「むちゃをしますね要。今湯を沸かしますから、温まって下さい。粥と酒も用意します」

善三さんは、そう言って出て行った。

私は、目を閉じたまま、二人の仲間の優しさに甘える事にした。

紫は、何も言わなかった。

本当は、おしゃべりなのに、私の前では、いつも大人しくしている。

我慢の連続だ。

私は、せめて、紫を安全な場所に置きたいと思うだけだ。

しかし、その気持ちを伝えるのは難しい。



「紫ちゃん、粥と酒だ。要に食べさせて下さい。私は湯をわかしますから。要が落ち着いたら、来て下さいね」

善三さんが、急ぎ出て行った後、私は布団の中の鳶の手足を触ってみた。

ひどく冷たいのが心配でならない。


私は、自分の手で、鳶の手を握り温める事にした。

だが、足にも触れてみると、雨の雫ほどの冷たさだった。

私は、鳶があぶないのだと思い込み、また泣き出した。

そして、鳶の冷たい手足を、必死でさすった。

しかし、冷たい手足は、ようとして体温を取り戻さなかった。





紫が必死で手足をさすってくれる。

私は、寒気に震えながら、胸の辺りに熱を持った。

なんと話していいか分からない。

罪人でも、僧でもなければ、自分を心配し、したってくれる紫を、抱きしめたら良いのだろうか。

しかし、私は僧として生きていくのだ。

紫さんが泣こうと、私は、自分の志を変える気はなかった。

私は、課せられた勤の為に人を殺めるような人でなしだ。

たとえ相手が本当の悪人だとしたって、殺されなければならないわけなんかない。

私は、贖罪の為、その魂に読経をしている。

命の続く限り、私は贖罪を続けるつもりだ。

だから、誰が勧めようと、私は還俗などしない。

自分の為なのだ。

私が、罪人である事を忘れない為、なぜ、鎖となったのか忘れない為だ。
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