宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話
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発行者:桜乃花
価格:章別決済
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ジャンル:恋愛

公開開始日:2010/11/06
最終更新日:2013/07/08 01:14

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宵の鳶、風聞きの紫、鎖八番組夜話 第1章 初宵 二つ目の力
紫は、もう眠ってしまっただろうか。

もうすぐ三好屋が見えてくる。

裏の木戸は、いつも開いている。

気配はないが、善三が見張っている。

夜は私や亀さんが訪れるから、ずっと起きているのだ。

善三さんは、眠らないことなど、気にも止めないようだった。

私は、ふらふらと裏庭の桜の木を目指した。

木の向こうの雨戸が、紫の部屋だ。

私は、雨戸を叩こうと近づいた。

すると、ばたばたと内側から雨戸は開いた。

予想はしていた。

紫は、泣くか、怒るかしているだろう。

しかし、飛び出して来た紫は、とても悲しげな顔をしていた。

「どうして!どうしてよ!なぜ私は、いつも待つしか出来ないの…」

紫は、泣きながら私の胸を叩き続けた。

私は、紫の涙を止めたくて、紫の体を初めて抱きしめた。

久し振りに人の体温を感じ、人の肉の重みを感じて、私の体から力が抜けて行く。

僧として生きたいなどと、よく言えたものだと思う。

しかし、紫の泣き顔を見、しゃくりあげ、泣く声を聞くと、私の体は、意味を知らずにたかぶってしまう。

その上に、震えるほど寒気を感じて、私は、泣きそうだった。

「鳶、こんなに高い熱。あの雨の中、どこにいたのよ!どれだけ呼んだと思うの?ただ胸さわきだけ残して、勝手に消えないでよ!」

紫は、切なさを、怒りに変えて、鳶を責める。

鳶は、ふらふらしながら言い訳をした。

「答えなかったのは、わざとじゃありません。出て行って、紫さんに何かあったらと考えてたんです。でもそのうち、体が冷え切って、気絶してしまいました。木の上の、太い枝にまたがっていたおかげで落ちずに済みました」

私は、紫を巻き込みたくないと思っているのに、紫の涙をみると、心を隠す事が出来ない。

「町方は追っ払ったわ。正直に、もらった物が、道すがら、悪くなったらしいって…腐った物にもお経を上げて、大事そうに埋めていたって、正直に話したら、盛土をして帰って行ったわ。私達は確かに罪人だわ。でも悪人じゃない。そんなにまでして逃げなくたって…」

紫は、今度は怒りで、私の胸を叩いた。

間違いなく、私達は、言葉でない物で話をしていた。

紫は泣いてしゃくりあげていたが、言葉は正確に私の胸に届いたからだ。
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